コンパッション

2008/02/02, 20:22 | 固定リンク

2月2日 土曜日 晴れ 

 随分と前のことなんだけど。
 季節は冬。俺は敬愛するフォトグラファーと異国を旅してた。発表のアテもなく、彼は写真を撮り、俺は音楽を通じて旅をする。今の言葉で云うなら「コラボレーション」ってやつなのか。費用対効果なんて、最初から考えていなかった。何かが起きそうな予感だけが二人にあっただけで。随分と厳しい旅をして、二人はまるで「世界の果て」みたいな場所に辿り着いた。
 俺は音楽に導かれて、その街にやってきた。まるで街灯に集まる虫のように。滞在しているうちに、世間とは隔絶された隠れ家のような場所(信じられないほど美しい自然の中なんだけど)で行われる、とある亡くなったミュージシャンの遺志を継いで行われるコンサートで歌わないか、と誘われた。それが年末にその場所で行われていることは有名で、知ってはいたけれど、まさか自分がそこで歌えることになるとは思わなかった。身に余る光栄ってやつだ。果たして、俺は歌った。客席には老若男女がひしめいていた。我ながら、じーんと深い感動を覚えた。とっても小さな集いではあるのだけれど、この会場はそのミュージシャンの故郷にある。大切にしていることは、大きなイベントにすることではなく、彼の遺志をずっと市井の人々に継承していくことにあった。彼は「音楽のあるべき姿」についてずっと考えていた人で、その道の中途で亡くなったのだ。
 ところで、ステージを下りたあと、フォトグラファーに「写真、撮った?」と聞いた。彼はこう云った。「この神聖な空気をカメラで壊したくなかったから撮らなかった」と。千載一遇の機会だったのに。でも、俺は彼のこういうところが好きだ。目先の事を考えすぎるあまり、人は道を見失う。もっと先のことを「イマジン」してみればいい。そうすれば、大抵の場合、自分がどうすべきなのか、見えてくるはずなのだ。

 何で、俺が今更こんな事を書いたのかって?その理由は秘密だ。

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by 山口 洋