60 is cool

2月19日 土曜日 曇り

その男の名前はIan Smith、スコットランドからアイルランドに移り住んだローカルミュージシャン。パブからパブへと渡り歩き、ギター1本で家族を養う。初めて会ったのは、アイルランドはドニゴールにある小さな街のパブ。多分、17,8年前の話。

最初から彼とは気が合った。初めて一緒に演奏したときから。かの国のローカル・ミュージシャンのレベルはとんでもないもので、僕は自分がプロフェッショナルであることが恥ずかしかった。訪れる度、彼は地元のディープなセッションに連れて行ってくれ、僕はそこで腕を磨いた。詳しくは書かないけれど、稀にとんでもない人物がそこに居て、フツーに演奏していたりもする。文字を持たなかった人たちの「口承」の文化はほんとうに奥深いのだ。あれは「研究」するものじゃない。分からない曲は弾かずにじっと耳を澄ましていればいい。身体に染み込んできたなら、弾けばいい。ただ、それだけのこと。でも、僕はtradは演奏しない。あれをやったところで、彼らより素晴らしい演奏なんて出来るはずがないから。

年の暮れ。ドニゴールのフジヤマ。エリガル山の麓で、アルタンのオリジナルメンバーである、故フランキー・ケネディーを偲んで音楽祭が催される。彼の偉業をたたえるその祭りはフレンドリーだけれど、神聖な空気に満ちている。そこのステージに立てるよう、手はずを整えてくれたのもイアン。あの場所でノンマイクで演奏したこと。老若男女から割れんばかりの拍手をもらったこと。それが僕にどれだけ力を与えてくれたことか。

彼は僕にたくさんの歌を教えてくれたのだけれど、中でも一番ぐっと来たのが、ドニゴールの人間なら誰でも知っている「the homes of Donegal」。何だか僕のことを歌ってるような気がして、日本語に訳して歌うことにした。それは後にドーナル・ラニーのプロデュースでレコーディングされ、アルタンによって、本国に持ち帰られ、ラジオでオンエアされ、この歌を歌わせたら右に出るものは居ないポール・ブレイディーの耳に届き、来日した際、彼に「ありがとう」と云われるに至った。こんな風に人生は不思議な縁で繋がっていく。悪くない。

10年くらい前、彼は人生初めてのソロ・アルバムをレコーディングしていた。その時彼は50歳。その話を聞いただけで、僕は涙が出そうだった。何と云う情熱。彼はここまでたどり着くのに、毎晩演奏し続けて、35年くらいかかったのだ。信じられない。彼は僕に参加して欲しい、と。もちろんだよ。何だってやるぜ、君のためなら。意気揚々とプロデューサーであるマナス・ラニー(彼はカパーケリーのメンバーで、ドーナルの弟でもある)のスタジオに行ったなら、僕に用意されていたのはハーモニカだった。がっくし、ギターじゃないんだ。でも、その歌は彼の少年時代を歌ったもので、ぐっと来た。アルバムタイトルは「restless heart」。曲のタイトルは「hometown」。彼の心情そのままだった。

かの街の連中が僕の所在を血眼になって探していたのだと。近年、僕はドメスティックな活動に終始していて、6~7年は訪れていなかったのだ。いわく、イアンが60歳になるから、ヒロシからお祝いのメッセージが欲しい、と。こうして、また僕らはぐっと近づいた気がする。返信に「60 is cool. 気持ちは25歳のまま、毎日音楽と向き合ってるよ。お互い素晴らしい音楽を創ろう」、と。

Ian

Wow, superb! So you are 60 years old now. Congratulations!!
Thank you for being here.
In my country, people put on red clothes to celebrate the 60th birthday to
show gratitude for their survival and the coming future.
It’s been quite long since we have last seen each other, but you Ian
and all the friends in Donegal are always on my mind.

I promise to visit you soon. Everything you taught me is my precious treasure all stocked in my heart.
Please always keep being a fabulous musician and a man to show me (&
the younger) the way to land of music.

I love you.

your friend,
Hiroshi (47)

それでは、イアンの人生初のソロアルバム「restless heart」からヒロシ(36)ハープで参加の「home town」をお聞きください。

Hometown

続いて、イアンが教えてくれた「the homes of Donegal」。ドーナル・ラニーのプロデュースで。1999年のアルバム「日々なる直感」に収録されています。メンバーはシャロン・シャノン、ナリグ・ケイシー、ロイ・ドッズ(exファアグランド・アトラクション)、レイ・フィン、ジョン・マクシェリー。そしてベースはthe boomの山川君です。今、考えると贅沢だなぁ。

homes_of_donegal

街のばかちんども、とイアンと僕。2004年。今年は会いに行くかんね。

街のばかちんども、とイアンと僕。2004年。今年は会いに行くかんね。

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60 is cool への2件のコメント

  1. みちのくのひと。 より:

    山口さんのお陰でこの二人のアーティストに出会うことが出来ました。
    人生は悪くない。
    http://www.youtube.com/watch?v=QgaIAzWW2zc&feature=related

  2. nami より:

    Hometown 心地よい風~♪

    プチ「地獄アワー」みたいで嬉しいです。

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