日別アーカイブ: 2023年7月10日

耳を澄ますと聴こえてくる、月曜日の君のブルース

7月10日 月曜日 晴れ   音楽に耳を澄ましてごらん。全部聞こえてくるから。こころの襞や、その人が歩いてきた人生の路傍の風景やヴィジョンまで。  性格が素晴らしい人がいい音楽を創るわけではまったくない。  内包されるんだよ。すべてのことが。良くも悪くも。  だから、嘘をついたって、聴くやつが聴いたらバレるし、取り繕ってたって、いつかそれは綻びる。中身がないやつの音楽は中身がないし、だから誠実でいるしかない。そのくらいには恐ろしいことだと思ってる。音楽を生業にするってことは。  ある種、天と通じてる。天って、自然と言ってもいいし、神と言ってもいい。神って薄っぺらいGODのことじゃなくてね。本来は無償の愛の世界。見返りを求めてはいけない。全人生を捧げるべき場所。  昔から音楽家なんて、食っていける職種じゃなかった。だからパトロンは必要だったし、階級のために音楽は創られてきた。オレはそんな音楽が好きだったことなんて一度もないけど。  ロックンロールが凄いのはそれが「庶民」のための音楽だったってこと。黒人たちが絶望と悲しみの中で産み出したブルースに基づいてるってこと。それをジョー・ストラマーみたいな本物のパンクロッカーが世界の若者に「態度」として広めたってこと。  だから、やる、やらないは別として、ブルースを知ってるかどうかはとってもデカいことなんだ。オレは福岡に生まれて、鮎川さんをはじめとする第一船団のパイオニアたちのおかげでティーンの頃にそこに触れることができた。だからブルースが内包するものをエッセンスとして、簡単にパクるなんてことはできなかった。でも、それはオレの血肉になったんだよ。  この国は薄っぺらいものほど受け入れられる側面がある。毒にも薬にもならないものが心地よい人にとっては、そのくらいがちょうどいいのだろうし、それが悪いことだとも思わない。クリスマスになると流れる曲を聴いて、オレは一度もこころが動いたことはないけれど、それに感動する人がいても、それはそれでいい。ただ、そこにブルースはないだけの話。  昨日、ビル・エヴァンスが1961年にヴィレッジ・ヴァンガードで遺した録音物をアナログ盤で聴いていた。オレが生まれる前だよ。たぶん、マイク2本で録音されてるんだけど、素晴らしくてね。そこには音楽のすべてがある。緊張と弛緩、音の粒、それぞれのこころの揺れ、儚さ、意志の強靭さ、性格の悪さ、人を信じること、信じられないこと、エトセトラ。すべてがある。奇蹟のような演奏。  その10日後にメンバーは死ぬことになる。それすら予感させるような空気があるし、観客はたぶん30人もいない。  耳を澄まして、君のこころの声、ブルースを聴いてごらんよ。聴こえてきたものを一人称で語ってごらんよ。面倒なことも増えるけれど、人生はもっと豊かになる。オレにとって、音楽の役目はそこにある。

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