夕陽へのファンファーレ official interview #2

interview 山口洋(HEATWAVE)『夕陽へのファンファーレ』

2. アルバム制作の決意、実験、そして挫折。

“311”をくぐり抜けて、ようやく立ち上がった山口洋は、HEATWAVEのニューアルバムの制作を決意する。そこからスタートした様々な試みは、なかなか思うようには進まなかった。挫折と失敗ばかりが繰り返され、時間だけが経過していくことになる。

聞き手、文、野田隆司(ハーベストファーム) 写真、三浦麻旅子

2013年2月某日。
アメリカの山中からのメール。

◎HEATWAVEのニューアルバムを録音すると宣言したのは、2013年2月だったということですが、そこに至るいきさつを教えてください。

“311”の後に、ミュージシャンのほとんどは、音楽をやることに何の意味があるんだろうと考えたと思うんだよね。まさに、そういう経験だったわけじゃん。
俺はミュージシャンである前に人間だと思ったから、人間としてできることとして『MY LIFE IS MY MESSAGE』というプロジェクトを始めたの。ほんとは俺が始めたんだじゃなくて、誘われただけなんだけど、気がついたら、俺が中心になってた。こういう性分だから、やらないという選択肢はなかったし、やるからには全力でやった。すごく傷ついたこともあったけどさ。
傷ついてるときは、思い切り傷つかないとだめなんだよ。もちろん傷つきたくないよ。でもそれは芸の肥やしだからね。本当に辛かったけど、あの時逃げなくてよかった。人間がすごいのはさ、そこから這い上がってくるわけでしょ。そんなこんなで、音楽に戻ってくるのに2年くらいかかってしまったわけ。
アメリカの標高3000mの山の上で、昨日のライブでも演った新曲を改めて聴いてみた時にさ、今、同じ時代に生きていることが一番大事なことだし、それを届けることには意味があるっていう風に思ったから、「HEATWAVEのアルバムを出す」ってマネージャーに連絡をしたの。

◎その時、すでに今回の収録曲はある程度出揃っていたんですか。

できていたのもあったけど、やっぱり、“311”を経てふるいにかけられるよね。“311”以降に書いたものでも、ソロアルバムには入れたけど、バンドのアルバムから外したものもある。
今回の『夕陽へのファンファーレ』は、自分の表現欲で作らなかった初めてのアルバムなんだよね。今までは、自分を表現したいという欲で作ってた。でも今回は全然そんなことはなくて、世界が少しでもよりよく機能するようになるための音楽を作りたかった。だから、そもそもの動機が違ったわけ。でも、その動機がなかったら、あの果てしない作業を貫徹できなかったと思う。

2013年春〜夏。
「HW SESSIONS」という実験。

2013年5月、千葉のライブハウスでHEATWAVEのライブを聴いた。『HW SESSIONS』と名付けられたライブは、アルバムのレコーディングに向けた公開セッションに近い形で、2013年3月から6月にかけてマンスリーで行なわれていた。(その後、2014年2月にも2回開催されている)ほぼ新曲のみが爆音で演奏されるスリリングなライブ。普段のライブとは異なる、ある種のラボのような不思議な空間だった。


◎『HW SESSIONS』というライブシリーズがありました。あのシリーズは、新しいアルバムの下敷きにもなったと思うんですが、目的は何だったんですか?

曲をブラッシュアップするという目的もあったし、何よりライブで実験してみようということだった。通常のレコーディング・スタジオでいいものを録るのが難しいのはわかってたから、2回目のライブから、マルチ・トラックを回して録音しておくことにしたの。
100回のリハーサルよりも1回ライブをやった方が、その曲やバンドのポテンシャルがわかるわけ。これは伸びるとか、伸びないとか。ライブの時はみんな本気だからね。
例えば、池畑さんのドラムとか見てくれたらわかるけど、ライブのときにすごいものが出てくるじゃん。

◎通常のカッチリと構成されたライブとは少し趣が違いましたけど、個人的には“途中”のものが聴けて面白かったですね。結構手応えは感じていたんですか?

うーん、『HW SESSIONS』では、手応えを感じたり、感じなかったり。非常に悩みながらやってた。性分としてチャレンジングなことしか燃えないんだろうね。自分で自分を焚き付けるための、逆境が必要というか。

2013年8月、伊豆。
“2013年のロックンロール”はどこに?!

◎『HW SESSIONS』の後、実際にスタジオにも入られてますよね。

『HW SESSIONS』の後、伊豆にすごく古くていいスタジオを見つけたからさ、去年の8月に5日間くらいそこでレコーディングしたの。

◎HEATWAVEのレコーディングってどういう形でやるんですか?

俺たちは、スタジオでもライブと同じで、歌も含めて全部一緒に本気で録ってる。スタジオでは、こんな風に演奏してくれとは、一言も言わない。俺はただ黙々と真ん中に立って、歌ってギターを弾いているだけ。お互いに影響し合いながら形になるのを待ってるの。
バンドやるってことは、その人のエキスが出ないと意味がないし、エキスを出すのに時間がかかる人もいるわけじゃん。それはもう永遠に演奏をしながら待つ。池畑さんがドラムを叩いてくれるようになってからはそういうスタンス。

◎実際に伊豆でのレコーディングはどんな感じだったんですか?

その時録ったものは、何かが足りなくて、何も感じなかった。オーディエンスがいるいないっていうのもあるかもしれない。ライブは1回きりだけど、レコーディングはやり直しがきくしね。とにかく笑っちゃうぐらいダメで。(笑)俺が求めている2013年のロックンロールのカタチっていうのは、レコーディング・スタジオの中になかったんだよね。唖然としたもん。もちろんちゃんと録音はできてるんだけどさ。

◎何が足りなかったんでしょうね?

その欠けている何かこそが、俺が一番大事にしてるものなんだけど。そのロックンロールの一番大事なものが入っていなかった。それは俺にとっては我慢できる類いのことではなかったから、ボツにした。スタジオが悪いわけでもないし、その時の空気とかなんだろうけど。なんか興奮しなかったんだよね。自分の想像を超えた世界にいけなかったら、そのままリリースできなかった。
サッカーに例えると点をとる意識がみえない試合とかさ。(笑)そんなのあるじゃん、フレンドリーマッチにもなってないみたいなの。

◎そうなった原因は考えましたか?

何でそうなったのか俺にはわからないけど、あの頃は2011年以降の世界に対して、メンバーそれぞれの態度の違いが大きかったからじゃないかと思った。今でもまったく一緒じゃないし、バンドって違う個性があるから素晴らしいんだけどね。その違いを俺がまとめきれなかったんだと思う。演奏していて辛かったもん。

◎一度レコーディングした音源をボツにしてしまうというのは、すごく重い判断ですよね。それなりにお金もかかっているわけだし。

失敗っていうのは、うまくいくための学ぶ場所だから。そりゃ痛いけどさ、(笑)お金じゃないもん。津波で家を失った人や原発事故の影響で地元に住めなくなった人のこと考えると、大したことない。
そんなにお金はかけられないけど、それに勝る何かを残すのって、逆境に追い込まれたときの情熱だと思うんだよね。それだけはバンドのメンバーに対しても示さなきゃと思ってたからさ。
今みんなと同じ時代に生きていることが大事だから。その作品が10年後のマスターピースであるより、同時代性が大事だと思うんだよね。

伊豆でのレコーディングの後、HEATWAVEのアルバム制作は、完全に暗礁に乗り上げてしまうことになる。
(続く)


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夕陽へのファンファーレ official interview #2 への7件のコメント

  1. 桃子 より:

    インタビュー読みながら「HW SESSIONS」での想い出やブログを読んでいた日々が鮮明によみがえってきました。ライブで納得出来ないから同じ曲をもう一度演らせてって洋さんが伝えて、メンバーも同意してファンも文句いう人いなくて声援送ったりね。『夕陽へのファンファーレ』がリリースされるまでの道程ってやっぱり応援するファンの道程でもあるんだなって改めて感じました。

    すごく傷ついたこともあったって洋さん。
    「傷ついてるときは、思い切り傷つかないとだめなんだよ。」涙が出るわ。逃げないでありがとう。今日は「Don’t Look Back」が沁みそうな満月の夜。

  2. うっちゃん より:

    アルバム制作中の思いを読んで、ライヴで何度も聞いていた歌が、ここまで思慮されていたかと感慨深いです。「夕陽へのファンファーレ」の内にあるバイブレ―ショーンは、皆に確実に響いてます。私は正直、この時代に山口洋さんが少し前を走っているだけで励まされます。
    だけど、憧れの人は憧れのまま取っておきたい…と思ってみたり…笑。
    まだ、何も終わっちゃいないっすよね!!

  3. ヘンテコリン より:

    Starlightのハーモニカの音色が、夕陽へのファンファーレ・・・に聴こえました。・・・私のお目目は夕陽に染まる海に・・・ぐっときたぜ・ありがとう。

  4. はるる より:

    三浦さんの写真は未発表作品のアップですね。うれすぃー♪セレクトは山口さん?お話しはヒリヒリするけど、おにぎりの真ん中みたいーな写真でほっこり。発するものはちゃんと受けとめてます♪

  5. yuroku より:

    興味深く拝読させていただいております。
    ややソーロー気味かもしれませんが、収録曲ひとつひとつについても深くお話を聞いてみたいです。

  6. Masako より:

    レコーディングへの想いと、3.11以降の心情は、読んでいて胸が熱くなりました。
    『夕陽へのファンファーレ』また、違った想いで聴くことが出来ます。
    今年2月の『HW SESSIONS』に1日だけ、参加させていただきました。私にとって初めてのHEATWAVEの音源でした。ここに居て良いかなと思いつつも、聴き入ってしまいました。メンバー4人ともに笑顔少なく、真剣そのものでした。
    このセッションが、New Albumと先日のLIVEに繋がっていると想うと、言葉にならないほどの感動です。
    未来へのHEATWAVE、これからも応援していきます。

  7. ジンジン より:

    長旅、お疲れ様です。
    11/13(水)福岡でのライブに馳せ参じた、
    長蛇の“おっさん”の一人です。
    良い眺めでしたよ。我ながら誇りを感じます。
    アルバムを手に入れ、サイン頂きました。
    ありがとうございました。
    日々、聴いています。
    “今、ここにないものなんて 未来にもありはしない”
    心に突き刺さっています。

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