夕陽へのファンファーレ official interview #4 最終回

interview 山口洋(HEATWAVE)『夕陽へのファンファーレ』

4. 2014年6〜7月。
CHABOさんが教えてくれたこと。
“丁寧”をパイのように日々重ねていくという生き方。

2014年6月から7月にかけて、『MY LIFE IS MY MESSAGE 2014』と題して、山口洋と仲井戸”CHABO”麗市のツアーが全国12カ所行われた。2013年9月に続く2度目のツアー。山口は、このツアーを通して多くのインスピレーションを受け取ることになる。そこでの経験は、そのままアルバムを作る上で非常に大切な指針として浸透していく。


聞き手、文、野田隆司(ハーベストファーム) 写真、三浦麻旅子

 

アメリカから帰ってきて、アルバムの本格的な制作の前にCHABOさんとツアーをやらせてもらったことは、すごく大きかった。
未来を作るために人間ができることは、今を一生懸命生きることだっていうことは重々わかっていたよ。でもCHABOさんはそれに加えて、丁寧に生きるということを教えてくれた。より丁寧に人間同士のコミュニケーションをとること。そうやって丁寧を、パイのように毎日重ねていくと、タッチが柔らかくてしなやかに変わるんだよね。本当に情熱のこもった素晴らしいものになるんだよ。そのことを身をもって教えてくれたわけ。
CHABOさんが、あれだけやってるんだから。一回り若い俺がやらないとダメだろうというのが、常に頭の中にあった。あの人はあれだけ丁寧に生きているんだから、身震いしたとはいえ、そこにたどり着かなきゃダメっていうエネルギーをもらったよね。

◎きちんと先輩から大切なものがバトンタッチされている感じですよね。

CHABOさんが手を抜かずにやってることが俺に影響するわけでしょ。そういうことだと思うんだよ。一つの物事に対してネガティブなことばかり言ってたら、ネガティブなことしか連鎖しないじゃん。
CHABOさんは、この世に居ない人のことも引き受けてるように感じることがある。大変なことだよ。背負ってるんだもん。それを横で見ているとわかるんだよね。人々の期待とか、それに対する努力とかを見ていて、俺が彼を励ますことができる唯一のことは、俺がちゃんと生きることでしかないわけ。出来の悪い弟が、ちゃんと生きてるのを見てもらうというか。そういうことを連鎖させれば、いいのかなって思うよ。
だって、南青山で、(下地)勇とやった日、勇も輝いていたでしょ。本当に俺も客として見せてもらったけど、ジェラシーなんか何もない。素晴らしいよね。なんか、人を輝かせられる何かがあるんだよね。

情熱を携えてヴィジョンへと向かう
長く孤独な闘いの日々。

山口洋のブログ『ROCK’N’ROLL DIARY』で「レコーディング航海日誌」がスタートしたのは、5月22日のこと。以来、断続的に続いてきたシリーズは、マスタリング前の10月8日まで続く。ブログ上では、ツアーなどを挟みながら、レコーディングにおける様々の悪戦苦闘が伝えられた。本格的な作業が始まるのは『MY LIFE IS MY MESSAGE』ツアーを終えた7月後半だった。

◎16時間分の音源を、一つのアルバムとして再構築していく具体的なプロセスを教えてもらえますか。

例えば『Don’t Look Back』のテイクが10曲あるとすると、この録音のドラムだけは使えるとか地獄耳で楽器のパーツパーツを聴いて組み合わせていく。
一番いいのは、みんなで一緒に演奏してるわけだから、そのままミックスさえすれば使えるという絶妙な演奏があれば、それにこしたことはないんだよね。そういうのが3曲ぐらいあったけど、大抵それは無理だったわけ。
でもテイクが10曲分あると、音の表情は全然違うわけじゃん。選ぶテイクによって全体の印象も変わる訳で。そういうことを考えるのが、すごく大変だった。素材があったらあったで迷うからさ。だから曲によっては3つのテイクに手を付けて一番良くなるものを選んだのもある。はなはだ時間かかったよね。

◎ライブのテイクがもとになっているのは何曲あるんですか?

『夕陽へのファンファーレ』の中の4曲はライブのテイクがもとになってるんだけど、誰もわからないと思う。1曲目の『Don’t Look Back』とか『プレシャス』ってもとはライブなんだよ。ライブのリズムトラックに、俺が2週間ぐらいかけて、いろんな音を足したり引いたりして、歌を入れたり。でも、そんなのわからないでしょ。でも、それができる時代だし、できる技術があるからさ。
ライブの素晴らしい瞬間を、ライブ盤として出すんじゃなくて、バンドのミラクルなところをパッケージングするためには、そういう手間のかかるやり方しかなかった。誰もそんなことやった人いないと思うけど。

◎作業が長引くと、見失ってしまったりってことはないですか?

3ヶ月くらいの間、本当にほかの仕事をせずに没頭してたからね。幻をみるくらい集中していた。多分、誰もやったことがないアルバムの作り方だっていうのはあったからさ。
みんなに伝えたいのは、自分が不可能だと思わなければ不可能はないんだよね。情熱さえあれば自分のヴィジョンにたどりつける。その状況を受け入れて、あきらめずに丁寧にやることだと思う。
とにかく、とても大変な作業だったから、スタジオに、“お前ならできる”とか(笑)、人に見せられないような標語が毎日増えていった(笑)。客観性を見失わないようにするのはとても大変だった。それを回避するために、毎日走りながら夕陽をみて。(笑)そこで自問自答して、リセットして頑張るみたいな。フィジカルにものを考えるってすごく大事なことなのね。作為じゃないアイデアが浮かんでくるから。自分の欲でやっていたら、多分途中で頓挫してたと思う。

『ガーディアン・エンジェル』、
そして『Fanfare for the Waste Land』。

◎『Fanfare for the Waste Land』というインストゥルメンタルの作品は、アルバムをより印象深いものにしていますよね。

ある日、フランシスコ・タレガっていう人が書いた曲の一部分が浮かんできたの。最初、その曲が何なのかもわからなかったんだよね。でも俺の曲じゃないことはわかったの。そしたら、俺の親父が、すごくヘタクソなんだけど、昔ギターで弾いていて、いつもその場所でつっかかってたのを思い出したんだよね。それが『アルハンブラ宮殿の想い出』の一節で。それがわかって、結構ジーンとしてさ。

◎“父のギターの音に耳を澄ましてる”っていうと、『ガーディアン・エンジェル』(アルバム『日々なる直感』に収
録)で歌われた世界そのままですね。

親父の形見のギターを弾いて、それを録った時にね、自分のやりたかったことが音楽として結実したなぁっていうのがすごくあった。なんかあのメロディいいよね。
古い曲で著作権が切れていたから、『Fanfare for the Waste Land』っていうタイトルに変えてもいいという許可が下りて、先人の遺産を有効に使わせてもらった。生きてる者がつないでいかないといけないよね。

2014年10月。
マスタリング〜細海魚とのキャッチボール。

◎マスタリングという作業のことについて、少し教えてください。

マスタリングというのは、音の全体のバランスを整える作業なんだけど。今のCDはラジオでかけた時に負けないために、弁当箱にご飯をぎゅうぎゅうに詰め込むように音作りされているのね。ある程度詰め込まなきゃいけないんだけど、弁当箱に詰める時にバランスが変わっちゃうわけ。俺は、丁寧にやることによって、スペースを残して、そこにみんなの想いを投影できるようなものにしたいと思ってるんだけど。

◎マスタリングを、魚さんに任せることにしたのはどういう理由からだったんですか?

今までのマスタリングはプロの人にお願いしていたんだよね。そうすると本当に1日で終わるわけ。俺たちはソファにふんぞり返って、指示だししてさ。(笑)
今回俺は、CHABOさんから学んだ生きる姿勢といったものが、音楽に反映されると信じていたからさ。マスタリングを魚と2人でやるとちょっと大変になるとはわかっていたけど、そこを乗り越えていくことに意味があったんだよね。

◎着地点を見つけるのに、相当に苦労されたようですが、マスタリングの作業で途方に暮れていた中で、魚さんが見つけた解決方法はどういうものだったのでしょうか。

こういう録り方だから、奇跡のバランスで成り立っているわけ。何かがちょっと崩れるだけで、バランスが全部崩れてしまうような脆い音楽なんだよね。
マスタリングに使うコンプレッサーというエフェクターを通しただけで音が変わってしまってさ。その感じが何日やっても全然うまくいかなくて、ツアーをしながら毎日、魚とやりとりをしてたの。
あるとき、とあるコンプレッサーがあってね。俺が、“このコンプレッサー使ったけど、あんまり音が変わらないよ”って言ったことに、魚が何かひらめいたらしくて。普段メールでしかやり取りしないのに、珍しく電話がかかってきて、“コレ聴いてみて” って言われてさ。それでようやく俺たちに光が見えてきた。

『夕陽へのファンファーレ』。
“丁寧”の積み重ねが、情熱として結実した。

◎今回、相当に時間がかかってしまいましたね。

余裕をもっていたはずなのにね。すべてが滑り込みだったけど、やり遂げた充実感はあるよ。俺の中ではもう過去のものになっちゃった。もちろんこれから宣伝して売らなきゃいけないんだけど。
実際、今年4ヶ月スタジオに籠ってたんだけど、本当にその間収入がないわけ。(笑)そういうことにも耐えなきゃいけない。そういうことが責任感にもつながるし。今更そんなことでビビるぐらいなら、こんなことやらないけど。でも、緊張感にはなるよね、たいして持っていないお金が目減りしていく日々とかさ。(笑)結構スリリングで楽しかったよ。(笑)
だからこそ今は、本当にオーディエンスに向かって“買ってくれ”って自信をもっていえるもんね。そういうとこは変わったかな。

◎完成したアルバムを聴いたメンバーの反応はどうだったんですか。

何も言ってくれないよ。(笑)本当に何のリアクションもない人たちだからね。(笑)
昔からそうだけど、自分一人で音楽をやれと言われれば、すべての楽器を演奏できるし、自分なりの完成型はあるわけ。でも一人でやるんだったら山口洋でしょ。HEATWAVEっていうバンドなわけじゃん。猛烈に個性の違う人と演奏することによって、曲を作った時と、まったく違ったものになる。こんな曲なはずじゃなかったって曲もあるよ。もちろん、結実しないことはよくある。でも自分が想像していたのと違う世界に行けばいくほど俺は嬉しいんだよね。

◎山口さん自身は完成したアルバムを聴いて、どういう風に感じたんですか。

最終的にマスタリングも終わって、出来上がった音をスタジオの帰りにカーステレオで聴いた時、俺たちの丁寧の積み重ねが情熱になって、他人の音楽みたいに流れてきたときにはすごく感動した。本当にやって良かったなぁって思ったよ。

◎これからどういう風に活動を展開していきますか。

この音世界、もう一歩先にいったツアー、このアルバムを表現できるツアーを来年ぜひやりたい。
ただ今回、ある事務所の社長さんに“そんなことも知らないの?”って言われたんだけど…。今大変な時代だから、ライブのお客さんが土日じゃないと来れないっていうわけ。でもすでに、でも土日のスケジュールって、来年の8月ぐらいまで空いてないのね。どうすんだよって思ってるんだけど。
お客さんが入らないと、俺たちも成り立たないからさ。それはちょっと早めに動かないといけないって考えてるんだけど。でも、そういう時代なのであればしょうがないから、時期は遅くなるかもしれないけどバンドのツアーもやるし、やっぱり新しい自分たちを見せられるように、このアルバムを売ることを頑張んないといけないよね。

「俺にはこの音楽が必要。おそらく必要とする人は多いと思う」。山口洋から、アルバム『夕陽へのファンファーレ』の感想を求められたとき、そんな風に答えた。山口は、同時代性を口にするが、同時に力強い普遍性も備えたアルバムだと思う。時代に寄り添いながら、音楽を手に前に進もうとする意思は、多くの人に勇気を与えてくれるはずだ。
私も今日から、少しの情熱と丁寧さを胸に生きていきたい。
(完)

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夕陽へのファンファーレ official interview #4 最終回 への3件のコメント

  1. うっちゃん より:

    野田隆司さん、ありがとうございました。
    今から、来年が楽しみでござる…笑。

  2. makiko より:

    聴いたり踊ったりするしか能のない私には、書いてある作業のことは半分もわからない。マスタリングかぁ…イメージできない。幻なんて見たこともない…。
    でも読んでいて胸が苦しくなった。
    私には私にできる情熱と丁寧があるかな。
    いつもありがとう。

  3. Masako より:

    インタビューの記事ありがとうごさいます。
    色々な想いが、伝わって来ました。マスタリング、とても重要な作業なんですね。魚さん、お疲れさまでした。
    明日チャボさんの丁寧なライブに足を運びます。近々魚さんのライブもありますよ。情熱を沢山いただいてきます。
    洋さんのライブは来年ですね。心待ちにしております。それまで、『丁寧』に生きてみようと思います。

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