日別アーカイブ: 2023年12月1日

職人たちとシェイン

12月1日 金曜日 晴れ シェインが逝った。よく生きた、と思う。アイルランド人が全員歌えるであろう、あの美しく、哀しく、ヒドい歌を書き遺しただけで、偉大な功績。でも、あの歌をデュエットしていた2人ともが、もうこの世には居ないんなんてね。嗚呼、時は無情。 ほんとうにお疲れさま。   昨日、VINCENTに頼んでいたギターが届いた。 ほんとうはウィリー・ネルソンみたいに生涯1本ってのが超絶カッコいいのは間違いないけれど、小さな町にギター1本で出向くことも多いオレにとっては、以前のものを育てつつ、新入りも入団させて鍛えておかないと、音楽の宇宙を伝えることができなくなる。 そんな意味では、もう魅力的なギターなんか楽器店には売っていない。残念ながら。ヴィンテージものは投機の対象ですらあるし、新しいもののほとんどは機械で作られている。VINCENT-ヤイリはオレにとって最後の砦でもあるのだが。 良質の木材を手に入れるのが大変な状況の中、がんばってくれたと思う。メインギターに昇格するには3年くらいかかるから、次のは半年にしてくれという無茶振りにも応えてくれたと思う。正直、ステージで音を出してみないと不明なこともたくさんあるけれど、先代の偉大な社長が遺した職人魂の遺産をどうにか時代とマッチさせ、進化させて「イズム」を守り抜いてほしい。 ブルータス、オマエもかってことがないように。懇願。   半年前にやってきたテーブルをメンテするために、富山から家具職人が3人がかりでやってきた。このテーブルは300年もののイチョウの木、一枚板でできている。 彼らは同じく枯渇している材を血眼になって探しあてた。 メンテとはカンナでもかけるのかと思っていたけれど、違った。「んなことしたら、この半年の変化がぜんぶ無駄になるじゃないですか」と。彼らは木にアイロンをかけ、見たことのないほど目の細かいペーパーをかけ続けた。二人がその仕事を担当し、一人は腕組みして指示を出す。なにをしているのかと思いきや、職人たちは完璧なフラットを目指す。それだと冷たい触感のテーブルになってしまうから、一人は行き過ぎないように監視しているのだった。冷酷かつ繊細。それが温かみを生むことをオレは知らなかった。 しまいにはギターを弾くオレの敏感な手も加わって、大人が4人でテーブルを撫で回して、凹凸を探っていく奇妙な風景。 すごいね、職人。 彼らにこのテーブルで食事をしてもらった。それが職人にとってある種の拷問なのも、わかってたけれどね。職種上、立場が逆転することは、ほぼないだろうから。 二日続けて、匠の技に触れるのはなにかのメッセージだったんだろう。その違いがもたらしてくれたものは、胸の中に秘めておく。この二組がどちらも90年代初頭にオレが担当していた深夜のラジオ番組のリスナーだったことも伝えておこう。富山と長崎で。   たいへんだからこそ、どう生きるか。他人のせいにするのか、それとも道を切り拓くのか。それはオレ自身へのメッセージでもある。 そう生きるかってことは職人のみならず、いくつになっても、いくつであっても、ほんとうは自分自身に突きつけられてる。   きっと、シェインは堕天使みたいな顔をして眠っているだろう。おやすみ、シェイン。          

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