コロラドからのメッセージ #8

3月21日 月曜日 曇り

このような状況の中、久しぶりにどっぷりと異文化の中に身を置いてみて。

客観性を保っているつもりでも、自分が視野狭窄だったことを思い知らされる日々。ソングライターの主な仕事は「観察」です。主観、すなわち客観とまでは云わないまでも、せめて世界市民と、在日九州人としての視点から、この状況を考えるのが僕の役目だと思っています。

標高3000メートルの雪山に同じ状況は二度とありません。曇りの日は、雲なのか雪なのかまったく判別できず、ホワイト・アウトならぬ、グレイ・アウト。風が強いと舞い上がる粉雪に前後不覚で、意識はトリップ。要するに自分の能力と限界を知っていないと、ヒドい目に遭うことになる。それが自然の凄み。とはいえ、安全なところで守られていたなら、ちっとも前には進めないし、何も得られない。能力ギリギリのところで、敬意を忘れることなく、せめぎあっている者だけに「gift」が与えられる。そういう世界です。

ある日、兄貴に「この先に進むと命は保証しません。自己責任にて侵入してください」と立て看板のある場所に連れていかれました。看板にはでっかい「ドクロ」マーク。明らかに僕の能力を超えていました。入った以上進むしかない。どれだけの時間、迷っていたのかも不明ですが、渾身の力(本当は力は不要)と、脳味噌をフル回転させ、彼方に見える兄貴の赤い服とヘルメットだけを追いかけて、何とかバス停にたどり着いたときには、もはや立っている気力もありませんでした。でも、こうして学ぶことだけは間違いありません。人には勧めないけれど。

ここに足を踏み入れたのは、まだ地震が起きる前のことです。でも、こう思ったのです。本当は僕らが暮らしている世界も、ここと同じような状況なのではないか、と。「何となく」、「曖昧に」マスキングされているから、分かりにくいけれど。本当は暮らしている世界の方が見えにくい分だけ、遥かに危険なのではないか。そんな意味で、兄貴は頼れるリーダーでした。僕の能力を既に見切っていて、ギリギリのところでリードしていく。災害が起きたとき、リーダーはいち早く、ステイトメントを出すべきです。それは兄貴と僕の意見。人々を鼓舞し、励まし、慰め、導かなければリーダーとは云えません。そのような行動があれば、どれだけ国民や、世界を包む不安を軽減できたか、と思います。表現はどうかと思うけれど、彼にとって、ピンチはチャンスでもあるのです。その上で、各々が独立して考え、弱者を思いやり、行動すべきだ、と。それが「連帯」の本当の意味だと思います。

この後に及んで、ハタと気づいたのです。僕らはチョコレートを選べるけれど、電力会社を選べない。そこに全ての原因がある、と。

アメリカのニュースは日本の地震からシリアの爆撃にとって代わり、オバマの怖い顔が映し出されています。ある国で、誰かが誰かを懸命に救おうとしているときに、違う国ではオイルマネーに絡んで、無慈悲に人が殺されていく。まったく何っちゅー世界に暮らしているんだと、暗澹とした気持ちになります。

長くなりますが、もう少し読んでください。

信頼している知人から、このようなメールが来ました。

「多くの人が祈りはじめている。
それは世紀末の疑わしい新興宗教ではなく、感謝の本質として。
私は自分らの手に負えない原発建設に反対をしているけど、原子力そのものを憎んでるわけじゃない。
いままで反対してきた人間も含めて、我々はその恩恵に預かったきたわけだ。
それなのに、こういう事態になって、原子力を悪魔のごとくに呪ってはいけないと思う。いいとこ取りだけして、都合が悪くなったら掌返しじゃ、ますます危険は高まってしまう。
それよりもプルトニウムさん、いままで働いてくれてありがとう。
人間はつい調子に乗ってしまうおバカさんだけど、これからは分をわけまえて学んでいきます。怒る気持ちも仕方ないでしょうけど、どうか心穏やかに落ち着いてください。って、ちゃんと感謝の気持ちを持たないとね。」

なるほど、と。

もう一度山に教えを乞いに行ったら、朝イチの便で帰国します。僕は譜面の読めない音楽家です。野に生きています。だから、音楽を鳴らします。いつものように本気で。自粛はしません。みなさんに会えるのを愉しみにしています。

追伸

共同通信の取材を電話で受けました。3/26の弘前のライヴについてです。本日の夕刊に載るそうです。

突然ですが、5/4に横浜のサムズ・アップで、敬愛している、八重山の唄者、大島保克をゲストに迎え、ライヴをやることになりました。詳細はおってお知らせします。是非、来てください。僕自身、ヤスと演奏できるのが楽しみです。

いろんなところから、「満月の夕」に関する様々な問い合わせを頂いています。何度も繰り返し発言してきたように、歌はリリースした時点で、僕のものでも、中川敬のものでもありません(中川某の意見は聞いてませんが)。どのように演奏して頂いても構いません。残念ながら、音源をここにアップすることは(考え方によってはラジオと同じと思うのですが)、契約上できません。ですので、誰かがyoutubeにアップロードしてくれたものを貼っておきます。

YouTube Preview Image

カテゴリー: 未分類   パーマリンク

コロラドからのメッセージ #8 への4件のコメント

  1. こゆき より:

    26日、私は渋谷でのソウルフラワーユニオンのライブに行きます。
    音楽を肌で味わえる喜びを感じて来ます。

    弘前のライブにも優しい光が降り注ぎますように。
    音楽の力を山口さんの本気を信じます。

  2. けいこ より:

    改めて思いました。
    私は山口さんの、前へ前へ走っていく姿が大好きです。

    心と体の声を聞きながら、これからも走り続けてください。

    野に生きる音楽家を、これからも応援させてください。

    追伸
    『感謝の本質としての祈り』
    胸にのこる言葉でした。

  3. c より:

    「人間はつい調子に乗ってしまうおバカさん」
    自分のことを言われてるようで・・・。反省!
    もう一度「感謝」という言葉、思い出します。
    気をつけて帰国してください。
    「満月の夕べ」
    想いを同じとする仲間で歌いたいなと思います。

  4. ucots より:

    今日の山口さんの日記を読み、ああ、売れてくれ!
    と強く思ってしまいました。
    (^_^;)

    この大きすぎるピンチの中、それをチャンスに変えるには多大なエネルギーが必要です。だから私はエネルギー源の山口さんの音楽を聴きたいし、みんなに聴かせたい!
    この国の鈍感なリーダーにまで響く曲をぜひ!
    野生の勘を研ぎ澄ませるような曲をぜひ!

ucots への返信 コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>