比類なき情熱の集合体

3月8日 火曜日 曇り

 

某国の巨大な空港で、乗り継ぎ便を待っています。標高3000メートルのその小さな街に向かう日本人は僕ひとり。それも悪くない。先日の佐野さんのコンサートのこと、時差ボケの中で、記しておこうと思います。多分、うまく言葉にできないだろうけど。

 

楽屋に置かれたモニターでそのコンサートをずっと観ていました。始めから演奏はタイトだったけれど、後半に向けて、渦を巻いて、神がかっていく。ミラクルとしか云いようがなかった。素晴らしかった。もはや、あのレベルまで行くと、技術云々ではなく、比類のない「圧倒的な情熱」の集合体だけが、それを可能にしているとしか思えなかった。野茂さんの直球とフォークボール。それが彼にしか投げられないように、佐野元春(敬称略)の代打はこの世には居ない。それが一体どれほどのことで、どれだけのプレッシャーを背負い、闘い続けてきたのか?僕には想像することしかできなかった。感嘆すると同時に、いろんなことが自身に突きつけられるコンサートでもありました。でも、それは僕にとっては「励み」以外のなにものでもない。あれから、ずっと「心の微熱」のような状態が続いているのです。

 

僕の無駄な芸歴30年をもってしても、このコンサートで彼の歌を歌うってことは緊張します。でも、楽屋は常にいい感じの緊張感に包まれ、ジョークが飛び交い、それが次第にピースフルな空気を作っていく。渦の真ん中には常に彼が。凄いことです。僕はこの巨大なステージで、素晴らしいバンドのみなさんと、そして師匠と音楽を奏でていることが嬉しかったし、愉しかったし、集中していたし、何よりも幸福だった。実のところ、「お祝い」に駆けつけたはずなのに、いろんなものを受け取っているのは僕らの方だったのです。

 

個人的な話だけれど、僕は音楽業界に絶望していたのです。出来るだけそこと関わらずに生きていこう。そう思っていました。あれだけの規模のコンサートを成功させるには実に多くの人々が関わっています。これは僕の経験から云って信じられない話なのだけれど、関わっているすべての人が彼への、あるいは彼が作り出した音楽への愛に満ちていました。たとえば。僕はあるスタッフの動きをずっと注視していました。溢れてあまりある情熱と愛で、身を粉にして働いている人を久しぶりに観た気がするのです。終演後、旧知のプロデューサー氏にこう云われました。「君が演奏しているのを久しぶりに観たけれど、頑固すぎるほどまっすぐに自分の道を歩んできたのが分かる。それは素晴らしいことだ。でもね、今日のコンサートを観て、分かってくれたと思うけど、同じくらい大切なのは仲間なんだ。夢を大きなレベルで共有でき、共に冒険の海への漕ぎ出していける仲間。そのことを諦めないで欲しい。君にはそれができるはずだ」、と。大きなギフトでした。そして、それはこの世を生き抜くヒントでもあります。

 

結局、言語化不能。僕の能力では無理です。だからこそ、音楽の力だと思います。僕は僕のやり方で、未来へとそれを紡いでいくつもりです。心からの感謝を。

リハーサルにて

リハーサルにて

師匠と弟子、本番。撮影、藤井一彦。

師匠と弟子、本番。撮影、藤井一彦。

30周年、本当におめでとうございます。撮影、藤井一彦。

30周年、本当におめでとうございます。撮影、藤井一彦。

 

 

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比類なき情熱の集合体 への12件のコメント

  1. 愛犬ちゃんむー より:

    毎日ブログの更新、楽しみにしてます。なのでネット環境のある場所でよかったo(^-^)o更新する方は、大変でしょうけどね…(ごめんなさい)

    佐野さんのコンサートに参加したことで、色々と反芻されたのですね。

    でも、これだけは言いたい!私も山口洋というミュージシャンのライブで、今まで感じたことのない「圧倒的な情熱」と、初めて魂が震えるという感動を覚えました。本当に出会えてよかった。でなきゃ、こんな病み付きになりそうな感動を知らずに一生を終えていたと思うから。
    それこそ、洋さんの代打はこの世には居ない!洋さんは、洋さんのやり方で、自由に、その時その時感じたまま、未来へとそれを紡いでいって欲しいのです。貴方の音楽に対するストイックなまでの姿勢は、見る者に感動を与えます!きっと応援せずにはいられないと思うのです。(偉そうなこと言って、すみません。でも本音です)

  2. tomo より:

    佐野さんの音楽に出会って21年、山口さんの音楽に出会って16年経ちました。
    常にお二人は私にとって、希望であり道標であり光であり、そしてかけがえのない師匠でした。そしてこれからも・・・
    コンサートには行けませんでしたが、この写真だけで感涙です。
    これからも、山口さんらしく突き進んで行ってください!
    道中お体にはお気をつけて。

  3. chiyorin より:

    「SPEECHLESS」のCDをやっと手にすることができ、LIVE会場で知り合った人と
    語らい、今、ほんわかと余韻を味わっています。魚さんと来てくれてありがとう!
    きっと、全国の人がこのDIARYを読み、山口さんが笑顔で過ごしていてくれること、
    音楽にむかっていてくれること、しあわせでいてくれることを願っていると思います。山口さんが「心の微熱」を感じているように、私達も、光と温かい熱をもらいました。「PRECIOUS」と「Starlight」車の中で、毎日聴いてます。
     ありがとう♫

    • 人事くん@高松 より:

      ライヴほんとに素晴らしかった。あの歌もこの歌も
      ひさしぶりに聴いたけど、歌えました。元春、すごいです。
      あの曲、神々しくてめまいがしました。感動。
      城南区でききはじめてから、十数年。
      変わらないものを感じました。行って良かったです。

      chiyorin!Wさんにわたしのアドレスを伝えるようにお願い
      しているんですけど、伝わってるかな?

      • chiyorin より:

        無事に帰途につかれたようで安心しました。
        今、Wさんにきいてます・・・。

  4. ファンタグレープ より:

    山口さんの「佐野さん、この曲を書いてくれてありがとうございます」って言葉にぐっと来ました。師匠と弟子。ほんと、そんな風に見えました。
    山口さんと佐野さんが歌う「君を連れてゆく」にはとっても勇気づけられました。
    佐野さんの最後のスピーチの一節、「この宛ての無い人生に音楽があることに感謝。 音楽なんて無くったって生きていけるけれど、音楽があったおかげで、 こんなにも見える景色が広がりました。」
    僕は山口さん、HEATWAVEの音楽に出会ったおかげで見える景色がめっちゃ広がりました。
    山口さん、ありがとう!

  5. けいこ より:

    何度も山口さんの言葉を読み返しました。

    大阪城ホールの空気を体感できなかったのは残念ですが、
    山口さんの『心の微熱』は私の胸に、うまく言い表せないけれど大きなものをくれました。
    そして『音楽の力』と書いてくださって、本当に嬉しかったです。
    想いを綴ってくださってありがとうございます。

  6. toshie より:

    写真のキャプションが ”パイオニア” に見えます。

  7. けいじ より:

    ファンタグレープさん同様、「佐野さん、この曲を書いてくれてありがとうございます」グッときました。

    本当にグッときました。涙を堪えるのがやっとこでした…

    師匠・お弟子さん 本当にありがとう

    師匠のファンであり続けた30年。小生只今42歳。

    これからもお2人を応援します!

  8. サンキュウ より:

    ありがとうは有り難しの連用形のウ音便化とはよく云われることであるが、在ることが硬いという意味に咥え、珍奇で貴重と云うよりはむしろ、難が有ると云うほうが山口洋と佐野元春の関係性を物語っているのではないか。それは当然ながら、リスナーとアーティストの関係性を象徴している、と云っても過言ではない。

  9. nobu より:

    大阪城ホールから帰りの車内でHEATWAVEのCDを爆音で鳴らし
     熱唱していたら、息子に「HEATWAVEのLIVE帰りみたいやん」と
     言われた、バカおやじです。
     佐野さんの曲は元々2曲くらいしか知らんかったけどさすが
     おいさんの師匠は圧巻でした。
     けど俺は人間くさいロクッンローラーが放つ光の方が
     サングラスをしてても眩しかったです。誰かが言ってたことばやけど
     絶対に失敗しない方法は、「決して諦めないこと」げな
     じゃろ。 んなら また。

  10. きょーこ より:

    山口さん、いそがしいのに当日のこと、アップしてくれてありがとう。
    わたしには佐野さんも、山口さんも、
    [そこにいてくれてありがとう]な存在です。

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