Flag Day

12月31日 土曜日 曇り

一年の終わりに何をするか?

自分への褒美として、敬愛するショーン・ペンの映画を観に行くことにする。

その映画館はオレが個人的に本屋として認めていない本屋と、コーヒー屋として認めていないコーヒー屋の2階にあった。どうでもいいけど、意外とどうでも良くない。映画だって、好きな映画館で観たい。

ショーンの初監督作品を観たのは忘れもしない高田馬場にある早稲田松竹で。91年だったかな。当時SWITCHにいた編集者の佐々木くんが「ヒロシさんの好きそうな映画なんでぜったい観てください」って。インディアン・ランナーを。

しばらく立ち上がれないくらいの感銘を受けた。オレは一人だけれど、独りではないんだと。この映画がどれだけオレを励ましたことか。ショーンが創る映画はいつだって「魂の救済」についてのものだ。自分も音楽でこんな風に人の役に立ちたい、と。いつかショーンのために音楽を創ろうと。

ところで。それからしばらくして、ガールフレンドに好きな映画の話をしたら、彼女はレンタルビデオで借りて、この映画を観て、オレにこう言った。「主人公の生き方は間違ってる」と。書くことを生業としている人だったので、ご丁寧に感想文までいただいたのだった。

あの。その。間違ってることなんて百も承知なんだってば。自分が正しいなんて、1ミリも思ってない。でも、どうしても虚構だらけの世界に馴染めない人間は、いったいどこに行けば、その魂が救済されるのか、教えてほしい。

ショーンの映画が素晴らしいことは言うまでもないから、内容をここに書くような野暮はしない。胸のつかえを洗い流してくれるような映画で、終演後の空は違って見えて、冒頭の本屋とコーヒー屋は変わらず虚構のままだった。

それでもこの世が生きるに値すると思えるのは、こんな美しい魂に出会うからだ。自分になにができるか奮い立たせてくれる魂がこうやって世界のどこかに存在しているからだ。

それらはほんとうの意味でいつかuniteする。それはオレが生涯かけて証明するよ。

配給会社も弱っているんだと思う。最後に流れる素晴らしい歌に字幕をつけなくて、どれだけのスポイルされた日本人がその歌が伝えんとせんことを理解できるのか?そして邦題も、宣伝コメントも薄っぺらくて酷い。オレが本気でその役目を引き受けたい。

この映画がヒットすることはないだろう。でも、「数の論理」が重要なのではない。その気高い魂がオレに来年も生きていく力を与えてくれたことは間違いないから。

あとは自分がどう生きるか、問題なのはそれだけだ。

 

 

今年もたくさん読んでくれて、ありがとう。力が残されている限り、書き続けるつもりです。

どうぞ、良いお年を。

 

 

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Flag Day への6件のコメント

  1. にゃあにゃあ。 より:

    昨夜NHKの「映像の世紀バタフライエフェクト『ロックが壊した冷戦の壁』」なる番組で、チェコやドイツの民主化や冷戦終結にルー・リードやデヴィッド・ボウイらがどう関わっていたか、それが若きメルケルらにどんな影響を与えたかを伝えていました。
    ミュージシャンがエンタメの枠にとどまらず、思想や政治をクリエイトし、民主的な大統領を育て、政治家と対等に渡り合う、時代と歴史な中で果たした役割の大きさに、驚愕し、興奮しました。
    その系譜に連なるミュージシャンの奏でる音楽を聴けることの貴重さ、そしてそれを受け取った者の責任。
    自分の位置で、2023年の歴史をクリエイトしていかねばですね。

    (上記番組は、NHKプラスで1/6まで観れるようです。)

  2. かつらぎ より:

    わたしも、みました。バタフライエフェクト。トップの任務を去る時の、演奏隊の音楽を聴くメルケルさんの表情が、うつくしかった。暗喩に込められた蝶の羽音を聴いたもの達の無言の連帯。ヒートウェイヴ、山口洋様、そして出会えた皆様、今年もありがとうございました。来年もどうか宜しくお願いします。すこし、じぶんをかえられた、いちねんでした。

  3. YUJI より:

    毎日励まされています。本当にありがとうございます。良いお年を。

  4. ポレポレジャスミン より:

    私達が、山口さんの創る音楽や言葉で魂が救われるように、山口さんにもそんな存在が必要だと思います。
    ショーン・ペンの今回の映画、私にも特に心に響きそうです。
    山口さんも、どうぞご自身のことも大切になさって下さい。

    2022年もあと少しですね。
    私は今年もヒートウエイヴの曲を聴きながら、年越しをしようと思います。

    山口さんも、良いお年をお迎え下さい。

  5. タカ より:

    Flag Day 観ました。
    自分には難解でパンフレットを読んで改めて深めている感じです。
    今日の山口さんのダイアリーはショーン・ペンのインタビュー「映画が持てる唯一の価値は、観客のみんなが映画館を出たときにそれがどんな場所であろうとも、いつもより寂しさを感じないということだと思ってるよ」これ、そのものだったように思えます。

    それは山口さんのライブ後に感じるものと一緒だなとも思っていました。

    今年も山口さんにたくさんの勇気や元気を頂きました。

    良い年をお迎えください。

  6. 風にハモ太郎 より:

    やっぱり、ショーン・ペンの映画を来年の新作鑑賞1本目に選ぼうと決めました。選ぼうと思った理由は「邦題も宣伝も薄っぺらい」とコメントされているあたりです。
    へそ曲がりですみません。
    ちなみに年明けは早稲田松竹で旧い日本映画を観ます。社会の片隅に生きる者(按摩さん)の出会いと別れを描く1938年の映画。心待ちにしていたのです。

    虚構の世界で、虚構にあえぐようなステージングをみせた紅白歌合戦の藤井風さん。
    凄かったなぁ。久しぶりに歌詞(テロップ)を一緒に口ずさんでしまいました。

    その前に岡山レディオモモのメガトンロックンロールショーの今年最終オンエア回で、最後にかかった曲はヒートウェイブの「らっぱ」と「馬車は走る」を聴く。
    年の瀬と「馬車は走る」はすごくマッチします。こちらはシンガロングです!

    今年もお世話になりました。
    2022年自分への最後のオンエアはブラック・ドーナッツ盤で、締めます。
    (そういえば、あいみょんがさっき”ドーナッツ盤”って歌ってました)

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