善きことのために、Running on empty、根津にて。

9月6日 金曜日 曇り

長谷川博一さんを偲ぶ会。彼が愛した根津で行われる。

僕とて両親を含め、たくさんの命を見送ってきたはずなのに、彼の不在の意味が未だに理解できていない。今だって「どうですか?元気ですか?久しぶりに飲みませんか?」みたいなメールが来そうな気がする。

だから、敢えて車ででかけ、飲まないことにした。なんだか、酒でいろんなことをうやむやにしたくなかったから。

その前に、旧知の古本屋さんに立ち寄って、彼の「イズム」みたいなものを受け継ぐことをともだちと考える。僕はどっちかというと、そういうことを考えるタイプではないけれど、しっかりと半年分のプロットが頭の中に出来上がっている。これも「彼」がもたらしてくれたこと。遺志と呼ぶには大げさだけど、少なくとも仲間3人のこころの中にはほぼ同時に芽生えたこと。その古本屋さんはとある理由で移転を余儀なくされたのだけれど、新しい店舗はメインストリートから一本入ったところにあるいい感じのバックストリートにあって、もう、なんというか、素晴らしすぎて言葉がなかった。ここから、発信すること。

この話はまた追って。

 

結局ところ「彼」は多くの人を繋いでいた。その光景をシラフのまま見つめた。奥さんの挨拶があまりに素晴しかったから、彼が書き遺したものを、失礼だと思いながら、写真に撮らせてもらった。ひとことも忘れたくなかった。

 

善きことのために。

 

彼の字で綴られていたことは、すべて善きことのためだった。

古本屋店主と僕は言葉を失くして、しんみりとする。そして、彼が綴ったことは、そのまま僕らが彼を愛する理由でもあった。たくさん喧嘩もした。でも、いつも根底に流れていたのは、すべて善きことのためだった。

彼の音楽にまつわる著作や仕事のほとんどは知っていると思う。けれど、音楽と同じくらいの情熱を注いだプロレスのことはほとんど何も知らない。というか、僕は知ろうとすらしなかった。

プロレス団体からテーマ曲のオファーを受けたこともある。で、試合を見させてもらったのだけれど、どうしても好きになれなかった。

彼から「君と三沢は似ているんだ」と説得されて、全日本プロレスに連れていかれた。失礼だけれど、プロレスはやっぱり好きになれなかった。

昨日、有志のみなさんによって、プロレスに関する彼の著作が並んでいたから、大人買いした。帰って眠れないから三沢光晴さんの本を読んだ。僕がプロレスに拉致された日のことが書いてあった。プロレスには何も感じなかったけれど、確かに三沢さんには光と影を感じた。読み進めると、彼が三沢さんにジャクソン・ブラウンの「Running on empty」を聞かせるシーンがある。

そして、好きな人はどんな人ですか?と彼は尋ねる。

「人の痛みが分かる人」。

もうそれ以上、読み進めることはできなかった。

それが僕らをつないだ、すべてだから。善きことのために。

 

———————————

HW、40th アニヴァーサリーツアー。今日から一般発売開始です。詳細はこちらを。

———————————

ケヴィン・エアーズのこと、書かせてもらいました。

 

彼にも聞いて欲しかった。

 

カテゴリー: 未分類   パーマリンク

善きことのために、Running on empty、根津にて。 への8件のコメント

  1. ミー より:

    少し前ですが、こちらのコメント欄で教えてくださった方のおかげで、
    メガトンロックンロールショー長谷川博一さん追悼特集を聴けました。
    愛にあふれた番組、ありがとうございます。

    長谷川さんが作った曲。山口さんのサポート。
    すごくからだに残っています。
    聴いてからずっと考えていることがあります。

  2. たかいけいちろう より:

    山口洋さま

    先日、岡山のNOFEAR/NOMONEY企画の皆さんのラジオでオンエアされた
    長谷川博一さんの オリジナル曲 
    ≪私は土地を買わないだろう:アレンジ山口さん≫
    について質問(&お願い)があります。

    ラジオを録音してほぼ毎日きいているのですが
    どうしても歌詞の聞き取れないところがあります。
    もし歌詞がわかるようでしたら、教えていただけないでしょうか?

    朝の通勤時間に自転車のペダルを漕ぎながら「オーイエス!」と鼻歌うたっている
    わたくしです。できれば完全版でうたいきりたいのであります。

    身勝手なお願いで恐縮ですが
    どうぞ、よろしくお願いいたします。

    追伸、個人的には、願わくばいつの日にか≪山口洋の頭の中のスープ(番外編):他の方に提供した曲、アレンジ、リミックス等≫という企画で、長谷川さんの楽曲も多くの方にきいていただく機会が来ることを希望いたします!!
    本当に曲の魅力を際立たせる山口さんのアレンジに脱帽!恰好良すぎです!!
    長谷川さんのあたたかな歌声が心にいつまでも残っています。

    9/23発売の新曲「ヘブンリー」心待ちにしています!!

    • Yamaguchi Hiroshi より:

      私は土地を買わないだろう / 長谷川博一 (1994)

      作詞、作曲 長谷川博一 編曲、全演奏 山口洋

      果てしない草原に 果てしない夢を見た
      モンタナのカウボーイは 最後の土地を売る
      そろそろ持つべきものを そろそろ手放すものを
      バラバラに入れ替える ミッドナイト・シャッフル

      人が泣くならば 土だって泣いている
      街は浮かれて 荒野は消える

      Oh Yes ! 誰のものでもない 私は土地を買わないだろう
      Oh Yes ! 誰のためでもない 私は土地を買わないだろう

      18で働いて 25でパパになり
      この春にマイホーム 地道な兄が言う
      そろそろ持つべきものを そろそろ持つべきものを
      それなら手放すものを I’m looking for a love

      生真面目に汗をかく 兄貴を愛している
      けれど俺は身軽でいたい

      Oh Yes ! 誰のものでもない 私は土地を買わないだろう
      Oh Yes ! 誰のためでもない 私は土地を買わないだろう

      寝静まる夜に 戸を叩く友がいる
      声を合わせて 二人で歌う

      Oh Yes ! 誰のものでもない 私は土地を買わないだろう
      Oh Yes ! 誰のためでもない 私は土地を買わないだろう
      Oh Yes ! 誰のものでもない 私は空を買わないだろう
      Oh Yes ! 誰のためでもない 私は惑星を買わないだろう

      • ミー より:

        わあ! たかい様、良かったですね!!
        (アレンジ、全部山口さんだったのですね。ワオ!!)

  3. かつらぎ より:

    今日、夕暮れの瀬戸内の須磨海水浴場で、イタリア語を話す美しい娘2人を連れた水着の4人家族と、初々しい日本人の茶髪のカップル、カメのビーチボートに乗った中国語を話す父娘、写真を撮り合うタイ語を話す女友達、砂浜でウクレレを弾きながら英語で歌っている若者と白髪の御老人を囲む集まり、子どもみたいに海に飛び込むタトゥーの黒人の若者。大型犬を散歩させている地元のおじさん、夕涼みにでてきた2、3さいの息子と母親なんかを一度に見ました。山に沈む夕日。淡路島の観覧車。鮮やかな夕焼け、陽が雲に反射して暁に輝く海面。そして半分より少し膨らんだ月。それぞれの国の様々な年代の人々が、この一瞬を人生の良き瞬間として記憶にとどめるだろう美しい時間でした。長谷川さんの歌詞を読んで、ラジオの優しい歌声を思い出して、今日の風景が重なりました。この世界は、誰のものでもないって、そんな時間でした。
    台風、被害が少なくありますように。

  4. 山田だんだだん より:

    小室等の曲に「私は月へは行かないだろう」というタイトルの曲があって聴いたことはないんだが何故かタイトルだけ記憶に残っていて、上記の曲は何か関連があるのかな?などと思ったりして。できればブログ上での音源の公開希望します。
    以下、昨日書いて長くなりすぎて送信をためらっていたのを思い切って送信します。

     根津という地名は東京に10年以上住んでいた自分でもどこ?というくらい馴染みがなかったが、古い記憶を辿ると、確かに行ったことがあった。高校3年の夏、某予備校の夏季講習を受けに上京したときに泊まったのが根津にあった旅館だった。東大農学部の近くにあるその旅館は当時でもかなり年季の入った建物だったが、ネットで調べるとまだ旅館として健在だった(しかし利用者の声は散々なものだけど・・・汗)。根津で長谷川さんを偲ぶイベントがあるのなら行ってみようかな。あの夏、参考書を目一杯詰め込んだカバンを背負って汗だくであの旅館を目指して歩いていた自分に会いにいくためにも(笑、いや涙か)。
     仲間3人というのは「ミスターアウトサイド」でインタビューされた3人でしょうか?もしそうなら喜納昌吉の「レインボームーブメント」にも参加した3人ということに。このアルバム確か持ってたはずだがあまり記憶にないのでネット検索すると、出てきた、「地球の涙に虹がかかるまで」という曲。YOUTUBEで探して聞いてみるといや、名曲じゃないですか、この曲。イベントでカバーしてほしいなこの曲。
     もう一つ。音楽ライターの小尾隆さんが長谷川さんへの追悼文をブログに載せていて、そこに「彼があるバンドとの関係がうまく行かなくなった時も、自分のお金でライブを観に来て、アンコール前にそっと帰るような人だった」とありました。このバンドってやはりHEATWAVEですよね、きっと。

  5. たかいけいちろう より:

    山口洋さま

    ぶしつけなお願いにもかかわらず、お答えいただき本当にありがとうございます!!
    1番最後の歌詞「ほし」は「惑星」と書くのですね。
    歌詞を拝見しながら曲をきくと、長谷川さんの伝えたかったイメージに
    少し近づけたような気がしました!!

    確かに もともとこの惑星にある広大な大地や海は 
    決して特定の誰かの所有物では なかったのですね。

    今日、昼に子どもと自転車で台風15号接近の最中、近くの海岸や堤防に
    出かけました。
    波も風も激しく、しかし時折急に雲がきれて太陽が顔をのぞかせてみたり…。
    自然の猛威の中にあっては、人はとても無力だと感じました。
    (しかしその中にあっても子は元気!)

    山口さんや長谷川さんの曲は、そんなわたしの日常に欠かせない
    サウンドトラックとなっています。

    新曲「ヘブンリー」早くききたいなぁ~!!

  6. 字伏 より:

     今が私にとって「時が満ちる」瞬間なのだと思い、買ったきり読んでいなかった
    『Mr.Outside』など長谷川さんの著作を読み進めています。

     現在、ちょうど読んでいる『チャンピオン 三沢光晴外伝』で以下、抜粋しますが
    「親しいロック・ミュージシャンを全日本プロレスに連れていったことがある。プロレスに詳しい奴ではないが、美を直感する感受性には長けている友人である。
     すべての試合を見終わった後、彼は言った。
     『どちらかというとファイトよりも、あまりにも真剣な観客のまなざしに圧倒された。じ~っと黙って見てるんだもんな。音楽とは違う。で、あなたの言うとおり、
    三沢は特別だね。彼は美しい。それから独特の陰がある』
     さすがの審美眼と感じた。」

     ひょっとして?とは思いましたが、やはり山口さんでしたか!そうか、長谷川さんにとって、プロレスにおける三沢光晴が、ロックンロールでは山口洋さんでしたか…

字伏 への返信 コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>