今日と云う日

8月6日 土曜日 晴れ

一年に一回、今日と云う日が来るたびに、僕が生きている限り、同じ話を書こうと思う。

10年くらい前、僕が「棘」と云う曲を書いた縁で、広島の原爆祈念式典のゲストに呼ばれた。身に余る大役。テレビのゲストは加藤登紀子さんで、ラジオのゲストは僕だった。僕は何ひとつ、語るべき言葉が見つからなかった。前日、広島のアホどもと、やりきれなくてゲロゲロになるまで飲み、踊り続けていた。まったくもって、ゲスト失格。
壇上に当時の首相、ミスター小泉がSPを伴って上がり、スピーチをかました。彼は人気絶頂だったが、その言葉はまったく心に響いてこなかった。会場の隅で、一輪の花を手に、プルプルと小刻みにその細い身体を震わせながら、一心に祈る老婆を見た。僕はその姿に胸をうたれた。彼女の姿こそ、「過ちは二度と繰り返しませぬから」と石に刻まれた、その言葉を体現していた。
ある作家も語っていたが、僕らはその過ちを「また」犯してしまった。その罪は重い。僕はあの老婆にあわせる顔がない。だから、出来ることをやらなければならない。当たり前だろ。

もうひとつ。キーラと云う僕が心から愛してるアイルランドのバンドとツアーに出た。ツアーバスが広島に近づいたとき、僕は「原爆資料館に行きなよ」と云った。僕は自分を確かめるため、ときどきそこに行くのだが、敢えて同行しなかった。ライヴ会場に先に到着し、僕は彼らを待っていた。戻ってきたときの、彼らの表情が変わっていた。ひとこと彼らは「ありがとう」と云い残して、嵐のような演奏をブチかました。素晴らしかった。

僕はこう思うのだ。知らないことは何も恥ずかしくない。でも、知ろうとしないのは犯罪だ。僕らは広島と長崎に出かけるたびに、何度でもそれを脳味噌に刻むべきだ。そして、繰り返してしまった過ちについて、深く考察し、反省し、未来を創るべきだ。

棘 – The Song Of Hiroshima -

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今日と云う日 への3件のコメント

  1. ながわ より:

    ボクは山口さんと同年代ですが、戦争とか原爆とかそういう重い話題が苦手で
    ずっと逃げてました。40代になってそれではダメだと思い・・・
    映画「ひめゆり」を見たりNHKの終戦特集の番組を見たり少しづつ・・
    ホントに少しづつ「戦争」について学び始めました。
    その中で「原爆の痕」をこの目で見ようと思い立ち去年広島を訪れました。
    原爆ドーム、平和祈念館、平和資料館・・初めて見る事実の凄まじさに
    打ちのめされました。ボクは今までこれを知らなかった。知ろうとしなかった。
    そのことを反省しました。そのときウォークマンの中にあったのが「棘」でした。
    この歌はまさに自分のことを歌っているように思いました。

    そして原爆の痕とともに広島という街の美しさ、明るさ、パワーに触れ、
    この街が好きになりました。
    まさに「果たして僕が見たものは 明るいヒロシマの夜」でした。
    東京に帰ってからもこの曲を聞く度に広島で見たことを思い出しています。
    あそこで見たこと、知ったこと一生忘れません。
    この曲のおかげで広島は僕の脳と体に刻まれました。

    ずっとこの曲に対する想いを伝えたかったけど、中々機会も無くて。
    今日山口さんが「棘」のことを日記に書いてくれたので筆を取りました。
    この曲を書いてくれてありがとう。本当にありがとう。
    いつか、またこの曲と共に広島を訪れたいと想います。長文失礼しました。

  2. だるまっこ より:

    私は20代後半の未熟っ子です。

    今日は祖母から戦争の話を聞きました。

    祖母は介護認定を受けていて、日に日に忘れることが多くなっています。

    けれど、戦争のことを聞くと顔つきが変わります。

    しっかりとして、凛として、目は据わっていて。

    当時、祖母は19歳。死体の上を歩いて、必死になって逃げたそうです。

    戦争のことを聞くと、押し黙ってしまうご高齢の方の気持がほんの少しわかりました。罪意識もあるのではないかと・・。

    私は20何年間か生きてきて、幸せなことに死体の上を歩いたことがありません。

    これは、どんなに幸せなことやら。ほんとうにこれは、どんなに幸せなことやら。

    つくづく、考えなければいけないと思いました。

  3. 8 doors より:

    「過ちは二度と繰り返しませぬから」
    これは、誰が誰に向けた言葉なのでしょうか?

    今回の東電の「過ち」と、原爆を落とされたことは並列に語るべきではないと思います。

    ただ、山口洋が言うように、
    「出来ることをやらなければならない。当たり前だろ。」
    100%同意します。

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