イシグロの世界

8月24日 水曜日 雨

あることを境にして、僕はまったく本が読めなくなってしまった。本屋に近づくだけで、具合が悪くなる。でも、それで死ぬ訳じゃないから、放っておいた。いつか、どうにかなるだろ、と。仕事場の移転を機会に、わずかな本を残して、すべて人にもらってもらった。ものすごい数だったけど、すっきりした。

もう一度、あの世界に僕を戻してくれたのはカズオ・イシグロだ。彼の著作がテーブルの上に積んであって、ムシャクシャして、走って、それでもどうにもならない時に、気の向いた本を手にして読み始める。しばらくすると、脳味噌の中の時空が美しくねじれてくる。心の毛穴が開いてくるのが分かる。ふと、我に帰り、僕は自分の仕事に戻る。どこでもない – nowhereな – 場所を通過して、平静な自分に戻る。静かな興奮。感謝している。

身体を動かしたあと、心を動かしてもらう。リセット完了。

身体を動かしたあと、心を動かしてもらう。リセット完了。

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イシグロの世界 への2件のコメント

  1. けいこ より:

    まだ少ししか読んだことがありませんが、「美しくねじれる」、なんだか分かるような気がします(生意気言ってすみません)。

    今日出かけた帰りに本屋に寄って、もう1冊読んでみようと思います。

  2. dig_think より:

    カズオ・イシグロ、良いですよね。境界線がよい意味で曖昧になっていく世界。現実と空想、過去と現在と未来の境目。人の記憶のはかなさ。「偶然と必然」も。英語での原文を読みたいとも思いますが、あまりに自然に日本語で読めてしまう。水のようにすっと体内に入ってくる。映像的な解像度に優れている、すっと世界が立ち上がってくる文章。深くて豊かな物語を紡ぐ作家だと思います。

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