in the days before Rock’n Roll

2月2日 木曜日 雪

スノーモンキーと呼ばれる、温泉を好む猿たちが生息する場所で湯治中。猿が浸かるなら、オレも浸かる。だって動物だもの。きっと良くなる。根拠はないけど。

そこに届いた訃報。

その偉大な人と、50年以上に渡って共に音を奏でた仲間からもたらされた知らせは、衝撃が大きすぎて、現実感がなかった。

その昔。ラジオから流れてくるローリング・ストーンズにノックアウトされたとき。その人たちは福岡でのちに伝説になるバンドをやっていた。荒野だったと思う。前例がないんだから。この町にロックなんかなかったんだから。でも、パイオニアである彼らのおかげで、オレの世代はロックンロールのみならず、本物のルーツミュージックを若いうちに聞くことができた。彼らの親友が偉大なレコード屋を創ってくれたから。荒野に道を創ってくれた恩義。多感な時期に本物に触れること。今でも立っていられるのは、そのおかげに他ならない。これほど恵まれた町は知る限り、福岡しかないし、その時聞いた音は今や血となって自分の中に確実に流れている。

70年代の終わり。オレは高校生だったか。彼はNHK-FMに出演して、以下の曲をかけてくれた。

1. Richard Hell & Voidoids – You Gotta Move
2. Iggy Pop – New Values
3. Dr.Feelgood – She Does It Right
4. Elvis Costello – I Don’t Want To Go To Chelsea

「完璧」すぎるラインアップ、なんというセンスの良さ。オレは録音したテープをほんとうに擦り切れるまで聞いた。これらの曲を続けて聞いてごらん。すごいよ。彼はこう言ってた。「上手い下手だけで、ギタリストの好き嫌いを決めるような人は。そもそもロックなんて聴かん方がいい」と。

若いオレはひねくれすぎていて、自分がやろうとしている音楽を町の文脈で語られるのが嫌だった。だから避けた。デビューも外国からインディペンダントな形で果たそうと模索した。

いけ好かないガキだったと思う。

でも、今ならこう思う。自分たちがやっている音楽の背後に、これまでに受けた影響が透けて見える存在でありたい、と。なぜなら、それらの音楽がなければ、オレはここには居ないのだから。

だから、ご本人にお礼を伝えたかった。受け取るだけの人生なんて、失礼にもほどがある。

去年の4月。日本で一番歴史があるハコの楽屋にて。伝えるには最高の場所だった。オレは勇気を振り絞って、上記のラジオ番組の話をきっかけに、これまで全人生を賭けて続けてきてくれたことへのお礼を伝えた。

「そんなこと、言われたことがないよ。ありがとう」。

その言葉にどれだけ救われたことか。

彼の人生を支えたギターの写真を撮らせてもらった。もはやギブソン・レスポール・カスタムではなく、彼の道程そのものが刻まれている唯一無二のギター。「どうしてトーンのノブがないんですか?」。「要らんけん」、と。

ロックンロール!

今頃、最愛の奥さんとレコード屋の彼と一緒なのかも、と思うと、少しだけ胸が軽くなる。

伝えてくださったことを、繋いでいくのが自分の役目だと思う。

感謝しかない。

 

 

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in the days before Rock’n Roll への11件のコメント

  1. ポレポレジャスミン より:

    山口さん、ありがとうございます。
    私も、鮎川さんたちの生き方に励まされて来た者の一人です。
    私も、自分なりに自分のやり方で、受け取った事を継承してゆこうと思います。
    山口さんもお体に気をつけて、頑張って下さい。
    応援しています。

  2. Y.HAGA より:

    4年前、渋谷クアトロ30周年のROCK’N’ROLL GYPSIESのライブに山口さんと鮎川さん、百々さんがゲスト出演した一夜を思い出しました。あのライブはまるで福岡の町のロックンロールの歴史をなぞる様で、自分の音楽嗜好はこの方たちに形作られてきたんだと気付かされました。
    鮎川さんは、雑誌媒体でも自身の音楽ルーツを積極的に語っておられました。もしかしたら、鮎川さんがいなかったら僕はブルースなんか聴こうとは思わなかったかもしれません。受取ったものの多さと、失ったものの大きさに茫然としています。今はただ「ありがとうございました。」しか言えませんが、鮎川さんから受取ったロックンロールを死ぬまで聴き続けようと思います。

  3. しの より:

    10代の頃、何回となくシーナ&ロケッツのLiveに通った。ロックンロールを私の身体に叩き込んでくれた方。とにかくカッコ良かった。初めてのバンドを結成できた時、鮎川誠になりたくて、レスポールカスタムのコピー品を購入し、懸命に練習した。どうしてもロックンローラーになりたかった。

    今は「Life」というステージでロックンロールを表現している。ロックンロールが教えてくれた事を、自分なりの解釈で「Life」の空間に描いていく。
    山口さんが言っている
    「自分たちがやっている音楽の背後に、これまでに受けた影響が透けて見える存在でありたい」
    これに尽きると思う。
    これからも、誠さんや先人たちから受けたロックンロールを「Life」で表現していきたい。自分の受けた影響に恥じない生き方で、熱く生き抜きたい。

  4. M I N より:

    山口洋。シーナ&ロケッツ 鮎川誠さんのラジオ番組にロックンロール!の洗礼を受けていた頃。
    私は女子高生で、ロックンロールはまだ、知らなかった。
    今、還暦。山口洋HEATWAVEAの歌に、励ましてもらいながら、生きてます!!!

  5. グレキチ より:

    リストの曲を順に聴きました。
    「She Does It Right」以外は聴いたことがなかったので、
    脳内ロックライブラリーが拡張して嬉しいです!
    ロケンロール!

  6. ナカムラ より:

    鮎川誠さんの訃報はとてつもなくショックでした。
    コロナ禍前のHWのライヴで鮎川誠さんをお見かけし、オーラがものすごくって、見てるだけで嬉しかったのを思い出します。
    私は現在56歳、同世代の友人とはジュークレコードのMさんしかり、鮎川誠さんしかり、その時代の空気を共有していたことをまた再確認してました。
    福岡って、解放感あってなんかやはりいい場所だと思います。

    ここ数日、山口さんのブログが更新滞っていたのも、鮎川誠さんを言葉に、表すには時間がかかったのではないかと感じてました。
    山口さんの文面から愛が溢れていて、目頭が熱くなります。

  7. パンとサーカス より:

    鮎川さんのご冥福をお祈りします。

    私が多感だった頃、一番刺激を受けた人です。
    ロックを愛し、ロックを愛した人を愛し、ロックから愛された人だと
    思います。

    山口さんが仰るように、その意志は世界中の人に受け継がれていくと
    思います。Keep A Rockin’

  8. 高倉浩之 より:

    同年代だと思われます。’76に博多駅前のヤマハ地下にあったUスタジオでメンバーの方々に会い、サインを学生ノートに貰いましたw
    最後まで色紙では無い事に『菊』さんから拒否られてww 奈良さん、鮎川さんの説得でサインを頂きました。あとは九電記念体育館の二階でメンバーの方々を見かけてはブンブンブン五月蝿く隣りに座りエアロスミスやレインボーを観てました。
    「どうですか?」(私)「こうあるべきである」(芝山さん)どうあるべき、かは遠慮して聞きませんでした(笑)鮎川さんは優しく…途方に暮れてます。

  9. #1 より:

    松田幸一さんがブルースハープ教則本で紹介していた、ブルースハープの手本と言うべき作品の中で、ドクター・フィールグッドの『殺人病棟』を知り、その後、鮎川誠さんがウィルコ・ジョンソンさんと作った『ロンドン・セッション1&2』を買って、それ以降にシーナ・アンド・ロケッツを聴くようになりました。『爆音ミックス』では当時の若手「ギター・ウルフとか若手に負けてられない」という情熱のほとばしりを感じた。
    売れているとか、売れていないとか関係なく、鮎川さんはいつもロックの最前線に立っている人だと思っていました。それは亡くなられた今でも変わりありません。
    御冥福をお祈りします。

  10. NoFearMan より:

     山口さんの文章と写真、偉大な先輩への愛情と感謝を、強くつよーく、ピシャリーッ!と感じました。

     ボロボロになったギターの写真から、あの偉大な先輩の表情や話し声まで伝わってきます。

     自分もめいっぱい、大好きなロックンローラーに感謝と敬意を伝えたいです!キープオンロッキン!

  11. 永山毅 より:

    鮎川さんのことはまだ整理出来なくて言葉が出てこない。何年も前に沖縄初ライヴでオープニングアクトもさせてもらったのは最高の想い出。昨年の沖縄ライヴでは言葉を交わしたばかりで未だ余韻が残っている。
    私もその鮎川さんのラジオを高校生の頃に聴いて興奮覚めやらず当時のバンドメンバーに聴かせたのを鮮明に憶えている。たぶんカセットテープにエア・チェックが残ってると思う。もの凄いカッコいいロックを教えて貰いました。

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