山との会話

 このダラクサなミュージシャンの僕が朝の6時には起きる。ベランダに出て、山を見上げ、今日のご機嫌を伺う。それからコーヒーを淹れて、バナナを無理やり一本食べ、ストレッチをして、バスに乗り、山へと向かう。リフトを乗り継いで頂上を目指す。標高は4000メートルに近くなる。一日に一回は息を切らしながら、スキーをかついでプチ登山をすることになる。はじめは休まないと登れなかったけれど、もう慣れた。とある頂上はもはやこの世とは思えない。行ったことないけど、火星ってこんなところなんだろう、と思う。エクストリームのサインをくぐる前に、深呼吸をする。山、そして会えなくなった人たちと会話をする。一人だけれど、まったく寂しくない。こんな世界の果てみたいな美しい場所に居て、廻りに誰も居ないのに、ちっとも寂しくなんかない。

 切り立った崖を見て、武者震いをする。こんなところ滑ろうとするなんて、イカれてると思う。でも、もう戻る術はない。ターンを一回失敗したら、僕は奈落の底に落ちていくだけ。だいいち僕は経験3年のビギナーだし。骨の一本くらいで済めばいいけど。昨日できたことが、今日できる保証なんてどこにもない。って云うか、同じ状況は二度とない。昨日はパウダー、今日はガリガリの氷。技術はぎりぎり。でも勇気を出して、エッジを立てて突っ込んでいく。この瞬間が好き。しびれる。生きてる、と思う。

 ここに来たときは、グルーム(圧雪)された場所しか滑れなかった。でも、今は自然のままの場所が好き。木々や岩や斜面やコブや、無茶苦茶な自然に翻弄されながら、直感と敬意と運動神経と考えることと、考えないことと。とにかく自分の持っているものを総動員して、謙虚さを忘れず、滑っているのが好き。俺は生きてるぜー、ありがとーと大声で叫びたくなる。

 山はほんとうに素晴らしい。分かれば分かるほど、何も分からなくなってた。ほんとうに言葉も失ってた。でも、世界と関わるほど、人は一人になる。それでいいんだ。

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山との会話 への3件のコメント

  1. ファンタグレープ より:

    今、来月の大阪でのライブのチケットを購入しました。
    ブログ読んでたら、なんだか来月のライブがますます楽しみになって来ました。
    ともあれ、明日も頑張ろー

  2. mike より:

    怪我をしても貴方の替わりはいないので皆の為に無茶はしないで下さい。

  3. きょーこ より:

    山口さんにとって素晴らしい時間になればいいな、って願う反面、怪我しないで無事帰ってきてライヴを聞かせて欲しいっていうことも切に願っています。

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