虫ケラ、その後

4月18日 木曜日 晴れ 

 過日、オレは飲み過ぎて、某所で久しぶりに虫ケラになってしまった。虫ケラとてプライドはある。虫ケラ歴もダテには長くない。だから、「オレは虫ケラだ」と知覚する最後の力があるうちに、「それではみなさんごきげんよろしゅう」と、みなさまの視界から消える。誰にも迷惑はかけない。それが虫ケラの小さなプライドだ。

 若い頃は路地裏や植え込みで朝になって自分をよく「発見」していたが、今まで大した怪我をしなかったのは単にラッキーだっただけだと知っているので、もうそんな無茶もしない。オレにはまだやり残したことがある。

 オレは小さい頃から側溝やなんかに埋まっている父親をレスキューして大きくなった。不思議と彼をそうやって助けて家に連れて帰るのは嫌じゃなかった。オレは子供なりに彼の心の深いところにある、どうしようもない哀しみを理解していた。満州や、戦争や、安保や、もろもろだ。彼を弱いと断定することは簡単だ。でもとんでもなく純粋な男だった。オレはそんなダメな彼を今だって愛している。それゆえ、オレは誰にもレスキューされずに人前から消える虫ケラであることにはこだわりがある。でなければ、愛する父親に申し訳が立たないのだ。

 ところで、今回は特殊なケースだった。

 オレは友人宅に宿泊することになっていたので、必殺技の「みなさんの視界から消える」攻撃が使えなかった。その日はオレを中心として、初めて出会う人たちの宴でもあったので、小心者のオレは柄にもなく気をつかった。むっちゃ明るい人を演じ、会をほのぼのとしたものにするには多量の酒が必要だった。そして運悪く、オレはひどく疲れていた。

 このような背景があり、オレは虫ケラになった。言い訳ではない、事実である。では虫ケラが具体的にどのような迷惑を掛けたと云うと、翌日宿泊先でほぼ廃人と化していたこと。某所に移動する道中で9ゲロし、到着時間を著しく(たぶん2時間くらい)遅らせてしまったこと。

 オレが凛とした素晴らしい人物だと思っている人からこんなメッセージが届いた。「自分をコントロールできない人は嫌いです」。続いて、その言葉にショックを受けたオレがメールでその事実を書き送った外国在住の人物。「オレが住んでる国じゃ、自分を律することができない奴が一番軽蔑されるんだよね。ヒロシはいくつになっても甘えが抜けないね」。

 真面目な話、オレはかなり落ち込んだのである。甘えてると云われれば認めざるを得ないし、自分をコントロールできないと云われれば、その通りである。あなた達は正しい。むっちゃ正しい。でも、正直に云うと、胸のあたりが苦しい。オレは諦めではなく、そんな正しい人物にはなれないと思う。今後そのような場所に顔を出すのは止めようと思うのだ。このような事態を回避する手だては今のところ、それしか考えつかないからだ。

 オレが今書いているのは「force」についての歌だ。ニンゲンは後天的な努力によって自分をかなりの部分で変えることができる。でも、流れている血に抗えないことだってある。無理に抗ったなら、その人は確実に壊れる。どうにもならないことだってあるのだ。何とか変えようとしている人間に対して、「force」と一言でばっさり断定されたなら、どうやって生きていけばいいのか教えて欲しい。そしてあなたはまったく正しい。で、応えなんてある訳ないから、オレは音楽を続ける。サレンダー。オレは無条件に降伏する。あなた達はいつだって正しい。

 こんなとき、このような音楽の力がオレには効くんだよ。ありがとう。素晴らしいぜ。

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虫ケラ、その後 への20件のコメント

  1. 萩原晋也 より:

    分かりますね。
    人に厳しく、自分に厳しい人って
    実は少ない。
    人に厳しく、自分に甘い人は多い。
    人を許せたら、見える世界が変わり、
    世界が拡がる。
    山口さんは愛すべき人だと思ったよ。

  2. 愛ぴょん より:

    お父さまから受け継がれている純粋さを持っておられるヒロシさん、 I love you. (虫ケラな私から、I’m sorry.…)
    完璧にコントロールできない不完全さを受け止められる人は、外から発せられるわずかなSOSや、根本的に大事なことをキャッチできる人だと信じています。

  3. Froggy II より:

    爆笑しました。虫ケラにも全力ですね。いつだって手をぬくことは無い?! 笑
    飲める山口さんがものすごく羨ましいです。わたしは酒処の地に生まれたにも関わらず、アルコールアレルギーで全くお酒が飲めません。
    何度も挑戦してはぶっ倒れ、三度目の夜間救急室に運ばれたときに断念しました。
    夢だったのです。ガウン着てフッカフカの革ソファーに座り、膝の上にはペルシャ猫、ブランデーグラスを片手に「フッフッフ…」とほくそ笑むのが。悪いお金持ちを目指していたのに、めっちゃ悔しい!
    飲みすぎることよりも、いい人するとか無理することが 粋じゃないよね。自分が思うほど、他人は自分を気にしてないし。とはいえ…ごめんなさい、次回の虫ケラ伝説が楽しみだったりもするんですけど。フッフッフ…

  4. うっちゃん より:

    人は誰でも、アナーキーとクレイジー、マーシーとホーリーの間で揺れている。
    前妻から、改行のないメールが届いた。
    “私にには非はありません”から一歩も出ていない。
    正論はたくさんだ。もがく虫ケラに抗う愛を感じる。5/6 行くぜー!

  5. 愛ぴょん より:

    うっちゃん、5/6 思いっきり愉しんで来てくれー♪

  6. HENDRIX より:

    ヒロシさん、そんなに難しく考えることないんじゃないっすか?(笑)
    酒は迷惑かけてかけられてなんぼのもん。正体見失う?当たり前です、そんなの。酒なんだから(笑)。とことんむ虫けらになって、朝になったらまた頑張ればいい。人は何度だって生まれ変われるんだから。だから人間って面白いんじゃないですか?虫けら万歳!お酒万歳!人間万歳!(笑)

  7. miiko より:

    9ゲロって、辛かったですね。私も酒や車に酔って嘔吐しやすいのでお察しします。最近は脂っこいものを食べると胃痛嘔吐下痢に襲われます。たまについつい食べちゃうんだな。後で辛いのは自分なのに。あっさりした食事だとからだが快調です。
    知人の方々から厳しいメールをもらったとのことですが、山口さんのからだを心配してのことだと思いますよー。お酒はほろ酔い程度で☆私も気をつけまーす!

  8. 愛ぴょん より:

    きっと知人の方は「ヒロシ、もう無茶をしちゃダメだよ。」ということを、厳し目の言葉で言われたのではないでしょうか。
    本当に愛があるからこその言葉、ヒロシさんなら、ちゃんと受け止めてくれると。

  9. 島袋健太郎 より:

    いつも、山口洋さんの音楽に助けられています。
    いつも、山口洋さんの言葉にも元気を貰っています。

    おかげさまで、自身の道を行く、その勇気と行動を、山口洋さんの生き様より僕も授かりました。
    心の中で、山口洋さんの約束したこと、まだ実行できていませんが、必ず守ります。
    僕は、正しさの暴力や、正しさの差別よりも、
    間違いながらも、自身の道を行く、そのことこそ、学んだと思ってます。
    これからも後ろを追いかけます。

  10. まりぼう より:

    私はよくあるんですけど、自分がしんどい時って人が何気なく言った言葉がグッサリ刺さったりして、めっちゃ辛くなります。山口さんもひょっとしたらそうやったんかなぁ〜なんて思いました。そんな時は、お疲れの自分をねぎらってあげて下さい。自分に優しくするのと甘くなるのと、どっちがどないなんやろう?とよく悩みますが、でもやっぱし自分を大切にできないと、他人も大切にできないと思うので…。

  11. 粒庵小僧 より:

    「俺を凛とした素晴らしい人物と思っている人」は自分がそういう人になればいいので、山口洋に託す必要はないと思います。ただ、そんな失敗を繰り返している自分は、ただただ自分を責め続けた思い出しかありません。人は自分らしく生きるために生きるのであって、それには時間が必要なのです。今のこのいろんな傷が、「あの時の傷」として思い出される時が来ればいいなあと思います。まだまだ、発展途上なので、失敗を積み重ねていきましょう・・・と自分に言い聞かせています。ゴメンなさい。

  12. 赤塚昌也 より:

    ヒートウェイヴ、ほぼデビュー時からのファンです。アルバムごとに成長して行く「山口洋」が大好きで、その成長に追いつけなくなり、一時聴かなくなった事もありました。
    人間は、それぞれの闇や、葛藤、挫折、苦しみ、現実に折り合いを付けることができずに生きていると思います。わたしも、そんな毎日の中、壊れてしまいました。

    そして、酒に逃げる事が常になってしまいましたが、昨年、酒をやめました。もう、一年がたちます。多少は、自分を律する事ができるようになった気がします。大切な家族を泣かす事も少なくなりました。

    でも、それは人それぞれだと思います。
    そして、「正論」は時には、人を切り捨て、傷つけ、心を葬り去ります。
    極論すれば、自分を律することが出来る人間には、人の痛みを想像する事ができるのか?とさえ思う事があります。ジョン・レノンだって、愛を歌いながら、苦悶しデタラメな事をやっていた時があるはずです。

    いつも、ブログ楽しみに拝見してます。

    葛藤し、それでも前に進もうとする「山口洋」がわたしは大好きです。愛の塊。
    ありがとうございます。

  13. なおみ より:

    ずっとの甘えは依存しちゃうけど、時にはね。でも、体しんどかったですね…。
    疲れた時には自分の限界がちょっと読み違いやすいって事を学ぶ機会だったんじゃないかな。
    私も気を付けたいと思いますw

  14. #1 より:

    西鉄で活躍した故大下弘さんが、現役時代の痛飲を審判員に諭された事があり、「自分もお酒は控えないとな」と反省していた矢先、路上で吐いている中年を介抱してあげたら、その審判員だった。というエピソードがあったなぁ。自分が生まれる前の、おおらかな時代の話です。話は変わりますが、HEATWAVEフルメンバーによる千葉での公演。楽しみにしています。

  15. Crying より:

    迷惑かけて、ありがとう!ってタコさんとリクオさんが言うてます。

  16. toshie, tokyo より:

    解ってもらえないのはつらい。
    「正しい」を境にして、どちらの側からも壁は築かれていくのかな?

    • toshie, tokyo より:

      ひとりで乗り越えられなければ、差し伸べられる信頼する人の手を借りればいい。そのことを誰も責めたりはできない。もう、そういう未来を描いていることに気付いていいと思います。こんなにたくさんの愛の循環。

  17. ファンタグレープ より:

    それでも僕は、洋さんみたいな男になりたいです。

  18. Kumiko より:

    今日のリハ虫ケラだったそうですね・・・楽しいお酒飲みましたね♪((・´∀`・))キャハハ

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