11月13日 月曜日 雪
たいせつなミッションを残していたので、オレはひとり町に残った。
岩木山神社で空と話して、この町のバンドとミーティングをする。
町には固有の歌があった方がいい。もうそんな町は沖縄の離島でさえ見つけるのが難しい。ネットの普及によって、多様性が失われていく。
バンドで一番難しいのは続けることだ。考えてみればあたりまえの話で、そもそも他人、かつ、個性はバラバラだからこそ音を出したときに一丸となることに力が生まれるわけだから、人間関係はややこしさを極める。
それでもオレを含め、バンドが好きでたまらない輩が幾多の試練を乗り越えて、それを続けようとするのだった。早い話がアホなのだ。ずっとともだちでいたいのなら、バンドなんてやっちゃいけない。
44年のキャリアの中で、どうにも行き詰まって、一回だけ某人物(故人)のすすめにしたがって、活動を休止したことがある。失ってみると、バンドが自分にとってどれほどの存在だったのか、身にしみてわかった。それはこの世界で自分が唯一属している「集団」で、組織に馴染めない自分にとって、世界とコミットするためにどうしても必要なものだった。
血を分けた兄弟のような存在に「もう一緒にはやれないのだ」と宣告するのは互いにとって、辛いにもほどがある。身を切られるより辛い。でも、恋愛と同じで相手の目を見て、一思いに斬らなければかならず遺恨を残すことになる。自分の手を汚すほんとうの意味をそこで学ぶことになる。だから、そんなことを他人にやらせるやつ、逃げるやつとは永遠に友人にはなれない。そのズルさは音楽ににじみ出る。
さて、バンドだ。そこにはミラクルが潜んでいる。そのうち「奇蹟の起こし方」とか「運命の動かし方」とか「岩を動かす方法」とか本を書こうかと思う(嘘)。でも、最後に必要なものは精神的な意味も含めて「体力」でしかない。体力がなければ、判断を誤る。体力に情熱は宿る。
ある種のロックミュージシャンが身体を鍛えるのは、それを本能的に悟っているからで、かくいうわたすもマッチョになりたいわけではなく、体力を落とさないように鍛錬は必要だ。
そんな話をしたわけだけど、彼らがミラクルを起こして、町の誇りとなるようにオレも全力を尽くそうと思う。
その上で、横尾忠則さんが三島由紀夫に言われた言葉を引用しておこう。いわく。
「君の作品には礼節がない。実に無礼だ。しかし、芸術作品には礼節がなくてもいい。だけど、人間に不可欠なものとして礼節は必要だ。例えば、縦糸が創造だとすると、横糸が礼節だ。この2本の糸が交じわったところに霊性が宿る」
この霊性と言われるところにミラクルは存在してる。
かつて横尾さんにジャケットを描いてもらったとき、ふたりの間に会話はほとんどなく、僕は歌い、彼は僕の写真を撮影していたけれど、そこには確かに霊的な結びつきを感じていた。
演奏を終えて。「ジャケットを描いてください」と言ったなら。彼は「もう描きました」と時空を軽く超えたのだった。