日別アーカイブ: 2023年11月15日

贖罪

11月15日 水曜日 曇り   夜中に急に小学生のころを思いだして眠れなくなることがある。もう半世紀以上も前のことなんだけれど。  Aさん(女性)はいつもいじめられていた。線が細くて、自己主張はまったくなく、たぶんあまり裕福な環境では育っていなくて、いつも同じ格好をしていて、教室の隅に佇んでいた。彼女が笑ったのを一度も見たことがない。彼女に落ち度なんて、なにひとつないのに。  フラッシュバックみたいに、今でもときどきとつぜん思い出して、胸が痛くなる。オレはもっとなにかができたんじゃないかって。実際できたと思う。こういうことはやめようって、もっとでっかい声で言えたと思う。  幼いってことは、なんて残酷だったんだろう。  実はオレもいじめられていたことがある。近所のクソガキ2人に執拗に。人間ってやつは3人寄るとだいたい1人が酷い目に遭うことになっている。体格も性悪さも、人数的にも勝ち目はなかったから、復讐には実に2年を費やした。周到に準備を重ねて、ついに決行。奴ら2人を泣かせて謝らせたあと、その達成感のなさに、復讐には意味がないことを知った。こんなことに情熱を傾けるのは時間の無駄だって。  Aさんがそんなこともするわけないから、ずっと静かに耐え続けたんだと思う。彼女の気持ちを思うと、ほんとうに胸が痛い。  彼女が中学にいた記憶がないから、どこかに転校したんだと思う。今でも願うことはただひとつ。幸せに元気でいてほしい。  世界で今起きていることはまったく同じ図式。幼かったころと同じことをしたなら、ただのアホだ。だから、Aさんには感謝しかないし、もし会えることがあったら、こころから謝りたい。  人前で歌うって、そんなことだったりもする。背筋を伸ばした贖罪として。

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