2月1日 木曜日 曇り
小さい頃からバカみたいに本を読んできたから、僕は斜めに本を読むことができる。2,3行束ねて読むのだから、スピードはむちゃくちゃ速い。
でも敬愛する宮内勝典さんの新刊「永遠の道は曲がりくねる」は二ヶ月かけて、スポンジに少しづつ水を含ませるようにして読んだ。氏が渾身の力を込めて書き上げたのがわかっていたから、その想いをしっかりと受け止めたかった。
90年代前半、NYで居候を繰り返していたときバイブルのように読み返していた彼の本があった。文庫本だったけれど、読み返しすぎてボロボロになっていた。明日をも知れぬわが身に、いつも次に旅する場所を示唆してくれた本。そのとき、宮内さんが数ブロック先に住んでいたなんて知るよしもなかったけれど。
新刊は素晴らしかった。受け取ったインスピレーションはここにつらつらと書ける類のことではなくて、胸の中でざわざわとしたままそこに居座るようなタイプのものだった。その力は行動を起こさせ、僕は月とともに生きるマスターにばったり会うことになる。
マスターはそのLIFEをかけて、月のすべてを教えてくれた。新月から満月までの周期、干潮と満潮、大潮と小潮、月の引力によって引き起こされるすべてのこと。月と地球との関係、女性が月に呼応し、旧暦は月の満ち欠けに完璧に合致すること。”month”のことを何故、月と呼ぶのか。
宮内さんの本に書いてあったっけ。太陽と月と地球の引力が釣り合う場所。ラグランジュ・ポイント。
僕は何にも知らなかった。あれだけ本を読んでいても月のことなんて何も知らなかった。ふるえるようなインスピレーションだった。
今夜は空を見上げなさい。マスターはそう教えてくれた。僕は雪山なみの防寒具を着込んで、屋上に登り、壮大な天体ショーを眺める。
言葉にならないし、する必要もない。あれだけじっとひとつのものを見つめたのはひさしぶりだった。静物画を描くとき、対象を見つめ続けていると、ときどき裏側まで見えることがある。そのことを僕は「見切る」と呼んでいるのだけれど、宇宙サイズでそれをやるのはほんとうにひさしぶりだった。砂漠や山の家でそれをやってきたけれど、まさか自分の家でもできるなんてね。
ふるえるような感動だったよ。
永遠は僕らの想いも飲みこんで、もっと大きな円環を描こうとする。だとするなら、それを夢想することも永遠だよ。
Your Songのプロモーションが始まったとき。どうしてかわからないけれど、黒い洋服しか着たくなくなった。最初のプロモーションは渋谷で行われ、スーツで武装して自滅。翌日、真っ黒な洋服を買い込んで、それからずっと黒まみれ。帽子から靴まで全部黒。
いったい自分が何をしたかったのか、昨日空を見上げていてわかった。ミルキーウェイにあるブラックホールに吸い込まれたいんだね。笑。それが僕の夢なんだよ、きっと。
親父は数学者で、6次元を研究していた。親子というよりは兄弟みたいに仲がよかった。彼の歓びも、背負ってしまった哀しみも小さい頃から理解できた。アル中で、よく側溝なんかに落ちていた彼を小学校に上がる前から拾いに行ってた。その哀しみの理由を理解しているから、ぜんぜん嫌じゃなかった。
10歳くらいの頃だったと思う。ある日親父の機嫌がよくて、一日かけて相対性理論を教えてくれた。僕はその日理解したのだ。ブラックホールのことを。あの興奮は未だに覚えてる。なんだかものすごいことを知ってしまったような、もう小学校には通えないような。笑。
でも次の日ともだちに説明しようとしたけれど、まったくできないのだった。あの頃動画なんてあればなぁ。もう一度あの話を聞いてみたい。てか、あの話がなんだったのか知りたくて、僕は長い旅を続けてきたんだってことが、昨夜はっきりとわかった。
悪くない。想いは円環を描くってこと。
お父さんのお話しいいですね、そういう親子関係って軽々しく言っちゃいけないですがすごく羨ましいです。
散々虐待されたアレハンドル・ボルドフスキーが自伝的な映画の最後で死んでしまった父親に「いや、違う、感謝するべきだったのだ」と語るのにすごく感動したんですが(どちらかというと私はそちらの方なので)…..山口さんは違うんだろうなぁと思います。
完璧な晴天ではなかった。きわめて淡く、雲が流れていた。月は太陽の光を反射させ、蒼く、あるいは白く、南東の空に浮かんでいた。2018年1月31日、午後8時48分。蒼く、そして白い月の、左斜め下が、ふと、なにげなく、欠けはじめた。半分になるまで、30分ほどだったか。そしてさらに30分後には、月は、太陽の光を反射させるのを停止した。なぜなら太陽と地球と月が、直線上に並んだから。地球の影のなかに、月は、隠されてしまった。深い陰影をたたえつつ、月は、ややくすんだ紅い色となる。これを超える美しい色を、僕はほかに知らない。静謐な、という言葉は、いま現在のこの月を、正しく言い表しているか。バルコニーから私はいま月を見ています、と彼女は言う。
★ Blackstar = 見えない星
(”大切なものは目に見えない”)
ボウイはデビューからの全作品を通して何を書きたかったのか?
最後の作品のタイトルが、そのヒントなのだと、
以前、NHKFMで土屋昌巳さんが言っていたのを思いだしました。
夕べは空を見上げながら、夜を駆け抜けていました…。
紅いお月様。初めてみる神秘的な輝き。古い小さなデジカメには、いつも光が放たれて平面的に写しだされるお月様が、影を生み出し、球体となっていました。宇宙の中のほんの小さなストーリー。どれだけの人たちが空を見上げただろう。24時。いつもの美しい満月に。そして回りにはうっすらと輪が。そのお月様は傘を被っていました。
小5の息子と一緒に外に出てみましたが、雲に隠され、ぼうっとしか見えず。
けれど息子の記憶に皆既月食を父と見にいった記憶が残ればいいな、とだけは思いました。