経験と感謝

12月29日 木曜日 晴れ

うちの隣で半年かけて、残忍極まりない開発が行われている。ここに住んでいるのは高台で富士山や駿河湾や江ノ島が見渡せるからで、なおかつ隣に里山があって、リスや鳥たちが暮らしていたから。鳥たちのおかげで季節が豊かになったから。

コになって、この町は移住したい街No.1になった。いや、待てよ。あのクソ・オリンピックの1競技が開催されることになったくらいから、なんだかおかしくなってきた。土地や不動産の値段は上がり続け、そして半年前から隣の里山にメスが入った。

ずっと観察していたけれど、恐ろしかった。山を跡形もないほど切り崩し、巨大な土止めを建設し、そこに運び出した土を戻して、土地を捏造した。なかった土地を造り出したのだ。オレは思うのだけれど、地形が形成されるのには意味がある。理由があって、川は蛇行する。数億年かけて形成されたものを欲にまみれたニンゲンがいとも簡単に破壊していく。

映画「杜人」、ほんとうに観てほしい。人があるべき姿がそこにあるから。

オレはようやく植物を枯らすことがなくなった。彼らの声が聞こえるようになったから。彼らはこうしてほしい、といつも語りかけてくる。だから、そのようにしてあげればいいだけ。若い頃は聞く耳がなかった。自分の都合で水をあげていただけ。今年ビワの種たちが100%発芽したとき、ようやくオレも人として半人前くらいになったと思った。

話を里山に戻す。

アホだと言われようとも。土地は人間のものではない。それを売ったり買ったりすることが嫌いだ。若い頃、ネイティヴな人たちの生き方から学んだ。我らはそこで生活させてもらっているだけで、それを好き勝手に切り刻んだりする資格はない。もっと謙虚に、敬意をもって接しなければ。

故長谷川博一さんが書いた曲がある。1995年だったかな。あまりに素晴らしかったので、オレがプロデュースした。「私は土地を買わないだろう」。

誰のものでもない。私は土地を買わないだろう。

名曲だ。

現場の作業員に罪はない。生きるための仕事だから。だから、その無慈悲な業者に何度も抗議した。なにも通じなかった。話している言語が違うのだった。虚しかった。

人としてのステージってものがあって、それは収入や社会的地位とはなんの関係もない。それは気高さと品格に由来するもの。残念ながら、それは顔に書いてある。特に目の中にね。

では、どのように生きるのか。

それは「当たり前」ってことに屈しないことだ。今日の「当たり前」は明日は当たり前でなくなることがある。自分の直感を信じなくて何を信じるのだ。自ら道を切り拓くことだ。そうすれば、Lifeにはやりがいしかない。

今年は自分も含めて「残念な人たち」にたくさん会った。

他人に対して、自分がなにかをできる、なんてことは1ミリもないけど。でも、できればよりよいLifeを送ってほしいとは思う。

責任転嫁、自己憐憫、

今起きていることは、すべて自分が生み出したもので、その経験に感謝できるかどうかにかかっている。

自分の手を汚しながらいこう。今朝も目覚めたことに感謝しながら。

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経験と感謝 への1件のコメント

  1. かつらぎ より:

    きのう、神戸新聞と一緒に、画家からの葉書が、ポストに届いていました。和紙の葉書には、63円の切手がはられていて、情熱大陸の番組で時の人になった老画家からの女神の絵が、パステルで描かれていました。なにも購入しなかった、のに、来廊ありがとうございました、の言葉を添えて、達筆の筆文字で宛名が書いてありました。

    葉書サイズの水彩画が、4万円でとりひきされるのに、いまも神戸下町のアパートの借家にすんで、独身で、市場のお惣菜を、うつわにもりつけて、かわらず暮らし続けている方からのお便りでした。

    うつくしい、祈りを感じる女神の絵。手が番組の影響で、一夜にして錬金術師になってしまった神戸の画家。
    まいとしの個展で、女神が美しく瑞々しくバージョンアップされ、個展の初日には、整理券が配られる画家さんの絵。
    郵便配達員さんは、広告と同じように、かわりなく、私のポストに投函されたことでしょう。、わたしも、あわただしかったら、それが原画だときづくことなく、新聞の間に紛れていたことでしょう。

    スーパーで、年越しの野菜が高騰し、おばあちゃんが、かうのをためらっているすがたを見ると、せつなくて息苦しくなります。だから、人気のいない、廃墟の市場の中、八百屋しているお店で、食材を買いました。
    じぶんの、ダメなところを、ダメだと言ってくれる人が、今年はいてくれて、燃料ぎりぎりで、年末までたどりつきました。
    千の夜をさかのぼって、子どもがいなくなった校庭でひろった梅の実で作った、梅シロップの瓶を初めて開封し、時間について、ゆっくり考えようと思います。息をしていればまだ間に合う、その杜人の言葉が、年末の私の背骨を支えてくれました。映画「杜人」に、深く感謝しています。熊といえば、神戸王子動物園のパンダ、タンタンは、来年末まで、日本にいられるよう、借入期間が延長されたそうです。

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