両親を赦す

1月20日 金曜日 晴れ 

 ショーン・ペンの「Flag Day」を観たのは確か大晦日。もう一度とは言わず何度でも観たかったけれど、オレがコになって、でかけられるような状態ではなくなってしまった。

 ロードショーはレ・ミゼラブル。客が入らなきゃ打ち切りになるのが運命。もちろんソフト化されれば買うけれど、どうしても映画館で観たかったのよ。どうしてって、それが映画だから。作者が映画館で観ることを望んでる作品だから。

 最終日のレイトショー。もう出かけてもいいだろうと、ちょとだけ自分を甘やかした。感染から16日。もう人にうつす可能性もゼロだってこと確認して。

 正直、コからの回復を焦るのはやめた。焦っても奴らはしつこいから。感覚的にひと月くらいはどう考えてもかかるだろう。受け入れよう。

 その映画館は正直、好きじゃない。コーヒーを売っていないコーヒー屋と、本なんて一冊も売っていない本屋の二階にある。総じて、ものすごく薄っぺらい。そこにはオレにとっては文化はなにもない。

 客はオレを含めて4人。

 でもね。とっても美しかった。二回見ると彼が伝えたかったことが如実に加速して伝わってくる。奥深いんだ。たとえば、娘に初めて運転させたシーンで、カーラジオからアメリカの「金色の髪の少女」が流れているのに気がついた日本人はたぶんオレだけだと思う。オレは12歳のとき、AMラジオから流れてくるその曲を片耳のイヤフォンで聴いていた。

 遠くアメリカに想いを馳せながら。そういう小さなディテールさえ、自分の人生とリンクする。

 惨憺たる客の入りと、自分のこころの動かされ具合とのギャップの中で。この国と世界はいったいどこに向かっていくんだろう、と暗澹たる気持ちにもなった。

 でも。今も昔も、こんなものだったのかもしれないね。ショーンがこの表現に15年もかけたことなんて、大して理解もされないままなかったことにされていくんだろう。それでも表現者は表現を続けていくしかない。

 薄っぺらいところからいちばん遠いところに行こうと思う。そういう勇気を与えてくれる映画だったよ。ただ、もらっているばかりじゃなくて、自分がなにをできるか、なんだよ。

 そして、歩き続けること以外に応えがあるのなら、教えてほしいよ。ほんとに。

 
 気づいたんだ。

 生きている意味のひとつは「両親を赦すこと」だと思う。

 誰もに通底してる。

 そんな映画、他にない。ありがとう。ショーン。

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両親を赦す への8件のコメント

  1. りゅういち より:

    洋さん、ありがとう。私は貴方、貴方の音楽、貴方の言葉たちから日々、勇気をもらっています。

  2. ENO より:

    「SISTER GOLDEN HAIR」私は、山口さんのインスタライブで初めて耳にしました。

    あの時。曲が終わった時にため息が出たりして、
    その後、自分の部屋でも聴きたくてすぐに手に入れました。

    今も、時々、針を落とします。

    福袋届きました。ありがとうございます。
    その前に届いた、お年玉もありがとうございました。

  3. ogishin より:

    僕も、「Flag Day」、おととい、見てきました。映像と音楽がぴったりはまっていて、みごとな映画でした。最近ほどんどない、僕の中の「もう1回見たい映画」にランクインしました。

    でも、山口さんが先日、書いておられた通り、邦題「父を想う日」は、まったくピンときません。これだと、娘が父に向かって抱く気持ちという一方向の静的なイメージしか表わしていないし、言葉にもインパクトがない。

    そうではなくて、この映画が描くのは父と娘の「関係」。それがどう変わっていくのか、変わらないのかがみどころ(母親と娘、という関係も描かれている)のはず。

    それは父から娘へ、娘から父へ、互いに影響しあい変質する、もっとダイナミックなものだろう。ひねらずに、「ある父と娘の物語」みたいなほうがよかったのではないか、と思います。
    それだけは惜しかった。

  4. Masako より:

    フラッグ・デイ。2月3日から16日まで、2週間上映。お近くの方は、是非。浜松シネマイーラにて。1日に1上映です。時間も異なるのでお出掛けの際はお気をつけくださいませ。

    映画館は満席ってことはほぼないけれど、お客さん2人だけの時がありました。素晴らしい映画は2回は観たくなりますね。少し前だけれど、サンダーバード55は2回。テレビで放映されていた、あの独特な動き。マリオネット。大好きで、幼い頃ずっと観ていました。CGで描かれてるものとは違い、リアルで美しい。最近はCGって判ってしまうのがなんだか…。そういうのは、ほぼ観ないです。役者さんが、演じている表情、動き、言葉。その背景、音楽。想像を掻き立てる。色々な場面があって、面白いですね。最近は「ラーゲリより愛を込めて」涙、涙でした。私の父は15歳で満州に渡り、満州鉄道で働いていていたこともあって、その時代のことが再現されていると、父の苦労が理解出来ます。この映画、若い人たちが多かったですね。なんだか、嬉しかったです。家でビデオ鑑賞も良いけれど、映画館に足を運びたいものです。

  5. タカ より:

    コの療養が明け、職場復帰しましたがメンタル以上に体力が落ちているのに驚きました。そりゃ5日ほどホテル暮らしで歩行も弁当を取りに行く1日3回じゃそうなりますよね。

    自然療法の城東百合子さんの書籍、始まりの章しか読めていませんが次の文章が印象的でした。「また私は結核以前に、乳児の頃におとされて(両親は何故か分からない)、背骨が曲がり、足腰に生涯につながる怪我を頂きました。しかしこの怪我のおかげで自然療法を学ぶことにもなり、怪我にも感謝しています。」これって山口さんが「Flag Day」で感じ取った、〈両親を赦すこと〉そのものだとちょっと震えました。

    「秘密のお年玉」朝には無かったものが届いていました。秘密ゆえに口外しませんが、ヘトヘトになって帰ってきた身としては、相当嬉しかったです、2度ほど軽く飛び上がるくらい(笑)ありがとうございました。

  6. カジ より:

    愛媛でも、いまやってるみたいなので、来週観に行ってきます。

  7. prisoner より:

    今年最初の映画が「Flag Day」でした。

    ありのままを受け入れることが、赦すことと思います。
    やっぱり映画館は良いですね。

  8. ファンタグレープ より:

    両親を赦すこと。そう思えるようになるのは、本当に大変ですね。途方もない時間を要したけど、やっと僕もそう思えるようになりました。多分なりました。許すと同時に許して欲しいと思うのです。でも僕は親父に先に死なれてしまったので許してもらいたいというのはもう叶いません。今年は親父が亡くなって20年になります。いつか許してもらえるかな?そんな日が来れば良いなと思いながら、毎朝、毎晩、親父に手を合わせてありがとうとごめんなさいと愛してると語りかけます。Starlightの歌詞のように、「いつかにじんでゆくさすべてのこと」そうなれば良いな。この曲が僕にとっての生きるために必要な光になっています。長々とすみません、とにかく、ありがとうございます。

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