日別アーカイブ: 2011年2月4日

渋谷にて

2月4日 金曜日 晴れ 僕の仕事場には「ちゃんとした」録音機材がある。でも、曲を作るときに使っているのはザ・ブームの山川君から譲り受けたカセットテープレコーダー。古道具屋に行ったなら、1000円くらいで売ってそうなやつ。中に入っているテープも、何かが録音されてたものを上書きしてるだけ。キュー&レビューと云う、テープを素早くキュルキュルっと巻き戻したりできるのが大好きで、これ以上のものはまったく必要がない。稀にプロデュース業に携わるときには、デモなんかを作らなきゃいけない時もあるが、よほどの事がない限り、僕にはこれで充分。時代に逆行してるのか、ただ置いていかれてるだけなのか、不明だけれど、自分としてはサイコーにイケてると思ってる。 昔はアシスタントエンジニアに渡すために、簡単な譜面みたいなものも存在してたけど、いつしかそれもなくなった。音楽は誰かと演奏することで変化していく。なぞるんじゃなくて、フロウを作る。だから、譜面を作ったところで意味がない。描きたい風景は頭の中にあるし、それは譜面には書けない。 しばらくぶりに、都会のホールに行ったなら、PAも照明もコンソールはデジタル化されていて、隔世の感があった。僕らと同世代のスタッフがひーひー云いながら、そいつらと格闘してる。果たして、この世は良くなったのか、悪くなったのか。多分、両方だな。何でも出来るってことは、何も出来ないってことが、分かってる奴だけが、あの手の機械をいじって自分の仕事をすることができるんだろう。 僕はもう誰にも注文を出さない。指示もしない。僕がカセットテープに録音したものに光がなければ、誰も反応しない。ただ、それだけのこと。そのわずか一筋の光がどのように変化していくのか、僕はそれを見守っているだけ。思いもよらないものに変わっていくときが一番嬉しい。光が道になることを強く願いながら。 ステージにオブジェが運ばれ、背後に星が仕込まれ、比較的アナーキーなモニター状況がセットされ、長野から看板が運ばれ、花束なのか、鳥かごなのか、その両方なのか、そいつが運ばれ、わらわらと懸命に働く輩たちが現れ、ローディー君が突然現れ、誰かが集めてきた落ち葉に、オーディエンスが運んできてくれた落ち葉が重なっていき、ライヴは始まる。たくさんの心からの愛をありがとう。 そこで行われたことは言語化不能。ただ、渋谷の風景は他のどの場所とも確かに違っていた。それぞれに持ち帰ってくれたなら、本当に嬉しい。足を運んでくれて、本当にありがとう。楽屋に帰ってきたとき、魚は焼き魚に、僕はなりそこないの力石徹になっていた。あ、ヘンな意味じゃないです。光には輝きがあって、そして怪物も居るのです。 心から敬愛している作家の宮内勝典さんが来てくださった。嬉しいにも程があると云うか。氏の眼光は優しく、鋭く、二度と同じ表情をしない摩周湖のように、輝いたり、曇ったり、反射したりする。僕が某外国に居候を繰り返していた頃、氏はわずか2ブロック先に住んでいらっしゃったのだ、と。その時に、僕が氏の本にどれだけ力をもらったのか、ようやくお礼が云えた。だから、ネイティヴな人たちに会いに行ったんです、と。ニンゲンが一番だと思い上がらない人たちに。氏は僕のネックレスに触れて、「そうですか、僕はスー族に会いにいきました」、と。「山口さん、若い人たちが旅に出たくなるような歌を書いてください」。その言葉はひどく、ズンと僕の心に響いた。もし、興味のある人が居たら、氏の著作「宇宙的ナンセンスの時代」。文庫で出ています。是非。この本は僕のfearとの付き合い方を決定的に変えてくれました。fearはニンゲンの一番の友人であるべきなのです。新作「魔王の愛」、僕も愉しみにしています。一部書評を抜粋。 —————————————————————– 魔王の愛/宮内勝典著 「戦え!」という神の声が、いつも聴こえていた。聖者のなかには、ちいさな悪魔がいた。 人間の本性は暴力的なものではないのか。なぜ非暴力を貫けたのか。20世紀を代表する政治家マハトマ・ガンジーの実像に迫る長編小説。死者と対話して、幻の時空をともに歩き、その生きた道を辿る。「あなたの夢見たことには二千億人の夢がそっくり含まれている。そして見えてきたのは、迷いのなかで求め続け、最後まで屈しない人間だった」。 ——————————————————————- dream harder! 夢見ることはいくつになってもできる。それを諦めないかぎりは。 とんでもなく眠れそうになかった。家に帰って楽器を下ろして、タクシーに飛び乗って、バーにでかける。午前2時。ソファーにふんぞり返って、キース・ジャレットのピアノを聴いていた。こんな時間に悲恋のアルバムかけるんじゃないよ。ぐっと来るだろ。気がついたら、店主と本日二度目のライヴを繰り広げていた。何、演奏してたんだっけ?もう忘れたよ。でも、こうやって一生音楽から離れられないんだと思う。

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