4月15日 月曜日 晴れ
ガリッと音を立てて、どんなときも食いしばってくれていた奥歯があっけなく抜けた。ドクターが見せてくれたそれは、できそこないの老木の根っこみたいだった。
生温かい血の味。
あのとき、踏ん張ってたときも、あのとき、悔しい想いをしたときも、こいつは無言で耐えてくれたんだなぁと、妙に愛おしかった。
もはや風前の灯。できるだけ生きながらえるようにと、隣の歯の力を借りてブリッジになっていたものの、舌で押しただけで揺れる奥歯に役目なんて果たせるはずもなく。人間関係と同じで、独立して立っていられなくなったら、終わりなんだろう。
「もっと誠実に生きろよ」。もっとも言われたくない言葉を、もっとも言われたくない人物に言われたことがある。なんで、そんなセリフを吐かれるのか、まるで見当もつかなかったけれど、その言葉は深くこころの隅に刻まれた。いやな感じで。恨んだりはしないけれど、残念ながらこれは一生抜けないだろう。
僕が一番恐れているのは人間の口。これ以上に恐ろしいものなんてない。言葉ひとつで人は簡単に殺すことができる。天使からサタンまで。人間は内包している。
だからいつだって「誠実」ってことにこだわって生きてきた。たとえ、伝わらなくても。認められなくても。天に向かって、やましいことがないように生きようと。
見上げた空は「おまえは間違っていない」と。そして抜かれた奥歯は、僕がそこにたどりつくまで、耐えて耐え抜いた、残骸だった。
ありがとう。それ以上の言葉はないよ。
細く長い道のり ともに多くの壁を超え
透き通った風が吹く日に 冴えないラストシーンを迎えた
孤独な鳥たちが くちばしを天にむけたとき
お前の瞳には 沈みゆく夕陽が映ってた
そんな詩が浮かんできた。明日、バンドで歌ってみるよ。いい感じだったら、HW SESSIONSで演奏する。こうやって、歌が生まれることを、愉しんでくれたら、嬉しい。18日、横浜。20日、京都だよ。
歯を抜いた痛みの日に、そして生易しくない日々の中で、こんなに清らかで美しい文章と詩を綴ることができるって、心から尊敬します。
応えてくれた空に感謝。
堪えてくれた奥歯に感謝。
詞にぐっときました。
この詞は美しいメロディを呼びそうな期待を勝手にしてます。
音楽として奏でられることを待ってます。
今日読んだ、寺山修司さんの言葉。
「どんな鳥だって 想像力より高く飛ぶことは できないだろう」が
頭の中に浮かびました。
あと
「同じ鳥でも飛ばないとりはなあんだ?
それはひとり という鳥だ」もです。
抜歯は怖いですよね。
麻酔の有難さが身に沁みます。